1 :名無しさん@おーぷん:2018/10/05(金)00:58:18 :QAI(主)

しゃちほこばる、なんて言葉がある。視線を上にやって思い出した。

私にピッタリだなと思う。

緊張しいで、頑なって、融通も利かない性格の面倒な人間。

それが、十八なんて周りよりちょっとお姉さんしてるから、
連絡役やまとめ役を任されることが多くなって。

そうするとやっぱり、人を口うるさく叱る機会も自然と増えていって。


2 :名無しさん@おーぷん :2018/10/05(金)01:01:27 :QAI(主)

特に今回はライブの会場が会場だから――

名古屋城!

まさか私の人生の中において、お城の広場で歌って踊る
機会があるだなんて夢にも思っていなかった!

――普段使っている事務所の劇場とは勝手が全く違う。

お邪魔します、なんて気持ち。
浮つき心も顕著になる。

……そうして、だからこそ私は、いつにも増して賑やかな
劇場の仲間たちに厳しくせざるを得なかった。

特に自分より年下の学生組には念入りに、

顔を合わせればやれ体調管理に気をつけましょうだとか、
段取りや振付もキッチリ覚えてきましょうだとか。


3 :名無しさん@おーぷん :2018/10/05(金)01:03:18 :QAI(主)

遠足に行くのとはワケが違う。

普段は頼れる大人組でさえ「向こうじゃ何を食べようかしら?」なんて、
ライブ後の打ち上げ計画で盛り上がっているような事態。

しっかりしなくちゃ、そう思った。

皆の楽し気な雰囲気に引っ張られてケジメを忘れちゃいけないと。

少なくとも私は、何時如何なる時も
楔であるべきなんだと心掛けて準備期間は過ぎていった。


4 :名無しさん@おーぷん :2018/10/05(金)01:06:01 :QAI(主)

「琴葉ちゃんには感謝なのです」

だから、そう、そんな言葉を掛けられた時に私は戸惑ってしまったのだ。

本番前日の夜、湯船に浸かりながらまつりちゃんが言った。

明日のコトが色々と気がかりだったから、
ギリギリまでプロデューサーを確認につき合わせて、
質問攻めにした後でやっと入った大浴場だった。

時間が中途半端であるせいか、私たち二人以外に人はいなくて、
まつりちゃんが水面をパシャパシャと指先で弄ぶ音がやけに響く。

それは明らかに何かを返して欲しいと、私の返事を待ってる行動だった。


5 :名無しさん@おーぷん :2018/10/05(金)01:07:23 :QAI(主)

「……私、感謝されるようなことは何も」

だから、とぼける。

どっちかと言えば恨みを買ってる方だろう。
彼女にも私に対する皆の愚痴が届いていたハズだ。

鬱陶しい、お節介焼き、粗探しをしては注意するきっかけを探す嫌味な教師のような存在。

実際に準備期間中は、私の姿を見かけることでお喋りを止めてしまう人達がいた。
真面目に練習やってますよ! ……なんて、あからさまにアピールして見せるような子も。

けれど、まつりちゃんはパシャパシャを一層大きく響かせながら。

「本当に、分からないの?」

ギュっと、心臓を鷲掴みにされたような気持ちになった。
思わず視線だけをやると、口元の笑っていない顔がそこにあった。

彼女の瞳は波打つ水面に向けられていて、指先が弾けば飛沫がピッと宙を舞って。


6 :名無しさん@おーぷん :2018/10/05(金)01:09:22 :QAI(主)

「姫には家来がつきものなのです」

ついっと口を開けば、全く普段通りの彼女だった。
それに、緩やかにほころんでいく表情は雪が溶けるのにも少し似てる。

「立派なお城、素敵なドレス、白馬に乗ってる王子様。
……姫には、どれも必要不可欠なモノなのです。

そして、それと同じぐらいに優秀な家来も大切なのですよ」

言って、まつりちゃんは指先遊びを急に止めた。

家来と言うのは私のこと?

多分、それで当たってるんだろうけども。
事実、今回の役どころはそうであるのだけど。

ぐるぐるそんなことを考えて、何も言えないでいるとお姫様はほぅっと息を吐いた。

警戒心を解いた表情、心底安らいでいるような姿。


7 :名無しさん@おーぷん :2018/10/05(金)01:11:35 :QAI(主)

「今回、プロデューサーさんも沢山のお願いを叶えてくれたのです」

そうして出て来た、名前。

彼女は瞼を閉じたまま、私に表情を読ませなかった。
それで良かったと思ってしまう自分がいた。

どこかで感じる、安心。
独り言のように彼女の話が続いていく。

「皆も、今日まで一生懸命練習を頑張ってくれたのです。手を抜かずに、適度な緊張感を保ったまま。
これなら明日の本番も心配いらず……優秀な家来に支えられて、姫は世界一の果報者なのです!」

パシャっと指先が揃い合った。

話は終わったと言わんばかりにまつりちゃんが湯船から立ち上がった。

惜しげもなく晒される彼女の体は堂々としてて、
私の目に強い自信の表れのように映っていた。

「中でも爺や婆やには特別苦労を掛けるから、感謝は機会を逃さず伝えないと……ね?」

ニコリ、微笑みの面影と一緒に取り残される私。

まつりちゃんの言った爺や婆やが誰を指すか、その役割が普通何であるか、
思い当たるともう我慢はできなかった。

遠慮の要らない浴場で一人、私はウサギのように目を腫らした。


8 :名無しさん@おーぷん :2018/10/05(金)01:13:09 :QAI(主)

===

「少し、腫れてるんじゃあないか」

翌日、すっかり引いたと思っていた昨夜の腫れを
目ざとく見つけられてしまい、私は何と答えるべきかで躊躇した。

イベント直前の最終確認。

本番前はいつもそうしているように、
彼はアイドル一人一人のもとへやって来ては声をかけて回る。

それは各々の緊張をほぐす為だったり、こんな風に不調を見つける為だったり。


9 :名無しさん@おーぷん :2018/10/05(金)01:14:04 :QAI(主)

「やっぱり気になりますか? 今朝見た時は行けると思ったんですけれど」

「いや、近くで見たら何となく……ってなモンだから。客席から見る分にはゼンゼン問題無いと思うぞ」

そう言ってプロデューサーが悪い悪いと頭を掻く。
それから彼は、私の着ている衣装を上から下までザっと眺め。

「それにしても似合ってるな。肩当てとか、その角とか。槍もセットで女偉丈夫ここに推参って感じの迫力がある!」

「偉丈夫……は、誉め言葉に微妙になっていないような」

「そ、そうかな?」

「はい、私以外の子には気を付けてくださいね。特にまつりちゃんなんかに――あっ」


10 :名無しさん@おーぷん :2018/10/05(金)01:16:05 :QAI(主)

その時、噂をすればというやつで、
まつりちゃんの方から私たちを見つけてこっちへ寄って来た。

彼女も私同様に戦国武将をモチーフにした衣装を着込み
――かの有名な徳川家康の鎧がモデルらしい――

それが誰より様になっているのだから凄いことだ。

「プロデューサーさん。まつりの衣装、どうなのです? 今日のライブに相応しい飛び切りきゅーと! に決まってるのです?」

……でも、プロデューサーは勘違いしてる。

「女傑」

「ほ?」

「すっごいじゃないかまつり! 本番前なのに気負ってない、只者には見えない余裕しゃくしゃくな佇まいはまさに大将!
――琴葉とそこに並んで二人、戦国の世に生きる女丈夫の迫力に満ちてるぞ!」

「……琴葉ちゃん。姫、褒めてもらっているのですよね?」

「誉め言葉が貧困なんです、きっと」

それでも彼女は嬉しそうに彼とお喋りを続けていた。
私はそれを眺めていたけど、不思議と嫌な気分にはならなかった。

彼女にとっては今がきっと、感謝を伝える時間なのだと思ったからだ。


11 :名無しさん@おーぷん :2018/10/05(金)01:18:28 :QAI(主)

「ではではまつりに続くのです。お客さんたちの前にいざ出陣!」

そうしてライブが始まった。まつりちゃんの号令に応える声は大きかった。

今回出番のあるメンバー、その一人一人が万全の姿勢で挑むライブ。
……おまけにプロデューサーが評した通り、彼女は只者ではなかったのだ。

ステージの上に踏み出す寸前、ふと空を見れば眩しい光が目に入った。
それが何かと気づいた時、私はしゃちほこばる、なんて言葉があるのを思い出した。

私にピッタリだなと思う。緊張しいで、頑なって、融通も利かない性格の面倒な人間。

だけど、集団という生き物にはそういう人が必要なのだ。

憎まれ役を買って出れる――それも誰かに言われるでもなく
自分から動くなら尚のコト良い――汚れ仕事のデキる人間。

今回のライブ、その準備期間で例えれば、私が嫌われ役でいる間に
皆の愚痴を聞いて回る受け皿になったのが徳川まつりだった。

結果としてそれはセンターを務める彼女への信頼と団結に繋がり、
その効果はステージ上のパフォーマンスという形で花開いた。

ライブは大成功に終わり、何も知らないメンバーの間には心地よい疲労感と充足が生まれたことだろう。


12 :名無しさん@おーぷん :2018/10/05(金)01:20:22 :QAI(主)

そうして時間が経つにつれて、興奮が薄れ、
心に余裕ができた頃から皆も少しずつ気づいていく。

もしくは、さり気なく彼女が誘導しているようだった。

注意深く観察してなきゃ気づけない、お風呂で私にそうしたように。
多分、それが彼女のやり方なのだと思う。

琴葉――と、久しぶりに名前を呼ばれる頻度が増えた。皆が私に頭を下げた。

本番を迎えるまでは不満もあったけれど、結果的には小言を言われててよかったと。

それが無かったら練習もどこかで手を抜いて、
今日のような舞台は作れなかったという内容が殆どだった。

私自身、皆を注意するのだから自分を棚上げすることはできないと
気を張っていた事実を話し、お互い様ねと笑って手と手を取り合った。

その様子をお忍びで眺めていたお姫様は、わだかまりが溶けるたびにさり気ない微笑みを浮かべ、
それはどこか、ホッと胸を撫で下ろす代わりのようにも見える笑顔だった。


13 :名無しさん@おーぷん :2018/10/05(金)01:21:50 :QAI(主)

===

……さて。そんなことがあったせいか、
私は名古屋を離れる日にぽつりとこんなことを口走ってしまった。

「私、今回のライブで自分がシャチホコだって気づいたんです」

「……え、ええ?」

「心の中がシャチホコで――だけど守り神らしいですから、案外悪いことばかりじゃないんですよ」

それは「ライブ成功のご褒美だ! 一人一品奢ってやるぞ!」なんて、
珍しく豪気を見せたプロデューサーが皆を連れてお城へ繰り出した時のこと。

お土産売り場を物色中、ふと目にとまった
シャチホコのキーホルダーを見つけてつい、言ってしまったのだ。

当然、何のことだか分からないプロデューサーは目を点にして驚いていたのだけど。


14 :名無しさん@おーぷん :2018/10/05(金)01:22:52 :QAI(主)

「……そうだな。ウチの守り神ってのには同意する」

言って、私の隣にそっと立つ。
その手がラックに下げらえたキーホルダーを一つ取って。

「ありがとうな。まつりのお願いを叶えてくれて」

笑った彼はなんでもお見通しという表情だった。
おまけに、手にしたキーホルダーを個人的なお礼として贈りたいとまで!

……だけど、この人はやっぱり勘違いしてる。

「だったら私も、ひとつ買います」

なので私も、彼に倣って一匹選び取ると。

「プロデューサーとおそろいの思い出にしたいんです。……いいですよね?」

「まぁ、別に……琴葉が良いなら、構わないけど」

プロデューサーが不思議そうに首を捻る。
私は笑顔を浮かべると、チラリ、屋根の上に視線をやった。

そこには太陽の光をサンと浴びて、黄金に輝く二匹のシャチホコが向かい合って並んでいた。


15 :◆Xz5sQ/W/66 :2018/10/05(金)01:26:20 :QAI(主)

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以上おしまい。琴葉誕生日おめでとう!
今回は私の好きなカードを元にお話を一編。

では、お読みいただきありがとうございました。


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【おーぷん2ch】【ミリマス】シャチホコトハ
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