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【モバマス】楓さんで安価(前編)
【モバマス】楓さんで安価(後編)


1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/05(金) 21:47:50.42 :e+U+OHeO0

楓さんで安価をもらって書きたいと思います
皆さんの思う楓さんを教えてくださいな

まずは、>>3の楓さんを


3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/05(金) 21:49:08.07 :HYP/gTktO
ライダー


6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/05(金) 22:06:06.34 :e+U+OHeO0

チャレンジ番組で取ることになったバイクの中型免許

長期間のロケの末、何とか撮ることができました

車はもちろん、免許証を持つということが初めてだったので

受け取る時はそれはもう嬉しかったです

私が免許証を受け取り、そのロケは終わったのですが

せっかく取った免許なので、バイクを購入してみようと思います


7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/05(金) 22:10:46.14 :e+U+OHeO0

と、意気込んでみたはいいものの……

私にはそういった知識もないですし、どうしようかと悩んでいた時です

お仕事が終わり、事務所に戻ると、何やらバイクの話題が飛び交っていました

「お疲れ様です。バイクのお話ですか?」

これは良いお話が聞けると思い、菜々さんと夏樹ちゃんに声を掛けます

「楓さんか、お疲れ様です」

「お疲れ様です、楓さん。夏樹ちゃんにバイクの雑誌を見せてもらってるんですよ」


8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/05(金) 22:16:25.52 :e+U+OHeO0

「菜々がいけるクチでね、旧車の事を良く知ってるんです」

「ヨンFour、FX、それにニンジャ……渋いですよねぇ」

よんふぉあ、えふえっくす? 忍者さんってバイクがあるのかしら

「私も見せてもらってもいいですか?」

「いいですよ、ほら」

夏樹ちゃんから雑誌を受け取り、ぺらりとめくる


9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/05(金) 22:24:17.73 :e+U+OHeO0

バイクと一言にしても、色々なメーカーと形があるんですね

角ばっていたり、丸っこいデザインのものもある

それにとてもカラフルで、眼を楽しませてくれます

そして、何ページかめくった時、私はそのバイクに釘付けになりました

「あ……これは何て言うバイクですか?」

まぁるいライトに、ライムグリーンのカラーリング

教習所で乗ったバイクより、とても綺麗に思えました


13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/05(金) 22:32:34.48 :e+U+OHeO0

「これはKH250、通称『ケッチ』て言うんですよ」

夏樹ちゃんがそう教えてくれました

「これは最終型ですね、このカラーが目を引きますねぇ」

菜々さんが細かく、補足してくれます

「ケッチ……ですか」

ケッチ、ケッチ? 頭の中で反芻してみる

うん……何だか可愛らしく思えてきました


14 :緑って言ったら、ほら……ね? :2018/01/05(金) 22:37:38.52 :e+U+OHeO0

「ちなみに、これはどこで買えるんですか?」

「え、買っちゃうんですか?」

「ナナは止めませんけど……高いですよ?」

2人がびっくりしてますけど、これは正に運命の出会い

きっとこの機会を逃すと、もう出会えないような気がして……

「大丈夫です」

胸を張って、声高らかに宣言します

「ケッチなことは言えないです♪」


15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/05(金) 22:44:52.11 :e+U+OHeO0

その日は夏樹ちゃんに雑誌を貸してもらい

お部屋に戻った後も、お酒を飲みながらケッチの写真を眺めていました

ケッチ……ケッチ君? それともケッチちゃんかしら?

お酒のグラス越しに見るケッチの写真はきらきらと輝いて

思わず、頬が緩くなってしまいます

いけないいけない、まだ買ってもいないのににやけちゃって……

「ふふふ♪ 早くアナタに乗ってみたいですね」

私の独り言に、からりと氷が返事をしました


16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/05(金) 22:52:16.11 :e+U+OHeO0

それから数日後、夏樹ちゃんから連絡がありました

夏樹ちゃんと拓海ちゃんにお願いをして探してもらっていたのですが

こんなに早く見つかるとは思いもしませんでした

早速、夏樹ちゃんと一緒にお店へと向かう事になったのですが

心が浮つくのを止めることができなくて、夏樹ちゃんに迷惑をかけてしまいました……


17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/05(金) 22:57:34.78 :e+U+OHeO0

「楓さん……嬉しい気持ちはわかりますけど」

「はい……反省してます」

これじゃいけませんね、もっとちゃんとしないと

何と言っても、これからケッチちゃんとご対面なんですから!

「顔がにやけてますよっと……お、着いた着いた」

夏樹ちゃんが先行して、お店の方とお話をしています

その間に呼吸を整えようと、軽く深呼吸


18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/05(金) 23:02:48.45 :e+U+OHeO0

すぅはぁ……すぅはぁ

「楓さん、こっちみたいです」

「は、はいっ……」

深呼吸をしたけれど、まったく意味はなくて

私の胸の鼓動は早くなっていくばかり

でも、それは嫌なドキドキじゃなくて

恋にも似たような焦がれた気持ち

さぁ、楓。ケッチちゃんを迎えにいかなくちゃ


19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/05(金) 23:08:25.88 :e+U+OHeO0

夏樹ちゃんの声がするほうへと向かうと、そこにはたくさんのバイク

そして、ぴかぴかのケッチちゃんが佇んでいました

「わぁ……綺麗……」

まるで写真がそのまま飛び出てきたような錯覚

いえ、ライムグリーンのカラーリングは実物のほうが綺麗かも

「ほら、楓さん」

夏樹ちゃんの声で我に返って、ケッチちゃんにそっと触れてみます

……金属のパーツで出来ているのに、ちょっと暖かいような、そんな感じがしました


20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/05(金) 23:16:17.74 :e+U+OHeO0

「どうです? ケッチとのご対面は」

にやにやとした夏樹ちゃんが私の顔を覗き込んできます

「感動です……ありがとう、夏樹ちゃん」

夏樹ちゃんの手を両手で包み、きゅっと握りました

「あーっと……探してくれたのは店の人ですんで」

少し照れたような夏樹ちゃん

「ううん、夏樹ちゃんも頑張ってくれたから」

「……楓さんにそんなことを言われると照れちまうな」


21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/05(金) 23:22:41.62 :e+U+OHeO0

「そうそう、エンジンもかけていいみたいですよ」

「エンジン……緊張しますね」

夏樹ちゃんから説明を受けて、エンジンをキックスタートさせてみます

スカートで来なくて正解でした

それはさておき

ケッチちゃんを起こしてあげましょうか

キックにそっと足を置いてから、ぐっと踏み込みこみました


22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/05(金) 23:28:14.37 :e+U+OHeO0

ケッチちゃんのおはようの挨拶はとても凄くて

びりびりと体が痺れれるような、そんな挨拶

そして、ケッチちゃんの鼓動が私の胸の鼓動をかき消すように響く

「おはようございます、ケッチちゃん」

ケッチちゃんだけに聞こえるように、小さく挨拶を返して

私の新しいお友達は、機嫌が良さそうに声を上げるのでした



おしまい


23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/05(金) 23:32:06.65 :e+U+OHeO0

こんな感じで書いていきますので、よろしくです
そうそう、単語だけでも書けることは書けるのですが
シチュエーションとか書いてもらえると、助かっちゃいます

それでは、見てくれた方に感謝を
安価の続きはまた明日です




30 :1です :2018/01/06(土) 19:41:46.91 :64podORF0

こんばんは、それでは再開します
酒でも飲みながらお付き合いください
私も飲みながらまったり書きます

それでは、>>33の楓さんを


32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 19:44:53.16 :udS5mY8RO
お月見

33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 19:44:57.66 :abqsn9uKo
サバイバー


38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 20:01:59.84 :64podORF0

「紗南ちゃん、何をやっているの?」

テレビの前で体を揺らしながら、紗南ちゃんがゲームをやっています

「これはバイオハザード2だよ」

バイオハザード……確かゾンビとか怖い生き物が出てくるゲームだったはず

あれ? この白くて四角い人が主人公なのかしら?

「紗南ちゃん? この人、ちょっとお豆腐みたいな人なんだけど……」

恐る恐る質問を投げかける

「楓さん鋭い! これは豆腐サバイバーっていうモードなんだ」

豆腐サバイバー? お豆腐が生き残る……の?


39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 20:07:05.58 :64podORF0

紗南ちゃんの返事にしばらく唖然としてしまった

……落ち着きましょう、現状を整理してみると

バイオハザード2はお豆腐が怖い生き物と戦うゲーム? でいいのかしら

お豆腐は冷ややっこで食べるのが一番だと思ってましたけど、最近のお豆腐は凄いんですね

ちょっとした勿体なさと、尊敬を感じます


40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 20:13:42.26 :64podORF0

「楓さん、変なこと考えてない?」

「い、いいえ……そんなことないです、よ?」

紗南ちゃんの言う通り、変な事を考えてましたけど、お豆腐が戦うのもそもそも変な話では……

「まぁいいや、ちょっと進めてみるから」

ぺろりと舌を出した紗南ちゃんは真剣な顔になって

ぎらぎらとした闘志を瞳に宿し、ゲームを再開するのでした


41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 20:16:37.37 :64podORF0

ああっ! 白い体がピンク色になってまるでかまぼこみたいに……

あら? お豆腐みたいだけど、よくみるとちくわぶみたいな感じにも見えるような……

『なにすんねん』

えっ!? この方は関西の人なの? そもそも人じゃないですけど……

「楓さん、笑わせないで! 全部声に出てるから」

「はい……ごめんなさい」

怒られちゃいました


42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 20:21:07.60 :64podORF0

それにしても、見てるほうもはらはらするものですね

お豆腐が戦うなんて凄くシュールだと思うんですが

私は紗南ちゃんのゲームプレイに釘付けになっています

……いいえ、もしかしたらお豆腐のようなちくわぶのようなういろうのような方にかも……

「よーし、もう少しでクリアっと」

なにやらコートを着た、頭が涼しそうな大きな人から逃げられればいいみたいです

頑張ってください! こぼれちゃったお豆腐は私が食べますから


43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 20:23:31.01 :64podORF0

大丈夫かしら……食べられちゃわないのかしら

さっき、攻撃されたときに赤いものがでてたけれど

血液は紅葉おろしか何かなのかしら……

それなら温やっこか湯豆腐もいいわね

今日の肴に思いを馳せていると、いつの間にか紗南ちゃんがゲームをクリアしていました


44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 20:26:19.86 :64podORF0

「ふぅ……昔のゲームはやりがいがあるねー」

楽しそうに、そしてやりきった顔の紗南ちゃん

「お疲れ様でした。そうそう、紗南ちゃん」

「どうしたの?」

きょとんとした顔の紗南ちゃんに私はこう言うのです

「寒いから湯豆腐でも食べていかない? 今度は敵側でどうかしら」




おしまい


45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 20:27:46.69 :64podORF0

豆腐サバイバーはうろ覚えです、ごめんなさい……
寒い日の湯豆腐は乙なもんですよねぇ
少し席を外します

21時には再開しますね




48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 21:23:47.69 :64podORF0

お待たせしました、それでは再開します
それでは>>50の楓さんを


49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 21:24:05.62 :F0zLZeFGo
スナイパー

50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 21:24:09.67 :fApJMfqA0
アングラー




53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 21:39:24.68 :64podORF0

話は数か月前

寒さが少しきつくなった時期の事です

「あ、楓さん。お疲れ様れす」

「七海ちゃん、お疲れ様です」

いつものように事務所へ顔をだすと七海ちゃんが何やら雑誌を読んでいました

「何を読んでいるの?」

「釣りの雑誌れすよ」

そんなの愚問れす! と言わんばかりに七海ちゃんが答えました


54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 21:43:40.08 :64podORF0

「へぇ……今の時期はどんな魚が釣れるのかしら」

んーと唇に手をやってしばらく考える七海ちゃん

「やっぱり今の時期は鯵れすね」

……鯵、味がいいからその名前がついたというお魚

お刺身でも、焼いても、揚げても、どのような調理でも美味しく頂けるお魚

もちろん、酒の肴としても一級品です

「まぁ♪ 鯵ならお酒の肴でもいいお味、ですね」

「もちろんれすよ♪」

そのときの、七海ちゃんのにやりとした笑みの意味を数日後に知ることになりました


55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 21:47:21.69 :64podORF0

ただいまの時刻、午前六時

準備などを考えて、その一時間以上前には起きています

「ふわぁ……」

自然と出てくるあくびを我慢……できませんでした

うう……私なんでこんな早起きしているのかしら……

いくら美味しい酒の肴が釣れるからって、ほいほい着いてきてしまったのが運の尽き

「うーん、良いお天気れすね♪」

そう言う七海ちゃんはご機嫌の様です


56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 21:50:24.80 :64podORF0

「七海ちゃん、ご機嫌ね」

「もちろんれすよ、楓さんの海デビューが良いお天気れすので」

それに、と七海ちゃんが続けます

「今日は潮も良いし、群れが入っていれば入れ食いれす」

「入れ食い……?」

私の質問に、可愛らしい胸を張って七海ちゃんが答えます

「おつまみがいっぱいってことれす♪」


57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 21:57:45.08 :64podORF0

七海ちゃんと雑談をしていると

エンジン音とともに、ボートがこちらへと向かってきました

「さて、船長も来たので準備しますか」

にやりと笑う七海ちゃんは、アイドルというより海の女という感じがしました

「私に何かできることがあれば言ってね」

「わかったのれす。では、ポイントに着くまで我慢れすかね」

船長さんと楽しそうに話す七海ちゃんがそう返しました

……我慢? 何を我慢するのかしら

そんな気楽な考えをしていた私ですが、身をもって知る事となりました


58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 22:00:49.22 :64podORF0

「この堤防を抜けたら波が高くなるのれす、しっかりと掴まって下さいね」

「は、はい」

きりりと引き締まった七海ちゃんに、短く返事を返します

そして、堤防を抜けたと思った瞬間……揺れが強く、いいえ、、とてもとても強いものへと変化しました

それはもう絶叫アトラクションにも負けず劣らずといったもので

波を受けるボートがぐわんぐわんと揺れるのでした


59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 22:05:36.19 :64podORF0

「きゃあっ……」

思わず悲鳴が漏れてしまいますが、波は待ってくれませんし、ボートは進むのみです

ざばんと波を受けるボートがぐわりと揺れる。その繰り返しを何度か受け、ようやくポイントへと到着しました

「今日は簡単にサビキとコマセを使って釣りをするれす」

七海ちゃんが説明をしてくれますが、初心者の私にはちんぷんかんぷんです

「ええと……いっぱい針がついた仕掛けに餌をつけて、たーくさん鯵を釣るのれす」

わかりやすい説明ありがとう、それなら私でも理解できます


60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 22:10:30.12 :64podORF0

「船長が今調べてるのれす、ちょっとお待ちを」

見てみると船長さんがすでに竿を投げていました

何事にも慣れている人の動作はとても綺麗で、流れるような動作です

「さて、掛かるならそろそろです」

七海ちゃんがそう言った瞬間です

船長さんが、ぐうっと竿を上に上げ、リールを巻きます

「おう七海ちゃん、今ならコマセはいらないみたいだ」

その言葉を聞いて、七海ちゃんが動き出します


61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 22:14:33.46 :64podORF0

「楓さん、近くで良いので、仕掛けを落として下さい」

「え? まだ餌をつけてないけど……」

あたふたとする私を見て、七海ちゃんが力強く返事をします

「今日は活性が高いみたいれす。仕掛けだけで釣れますよ♪」

こちらに話しかけながら、七海ちゃんが流れるような動作で仕掛けを海に落とします

「まずは仕掛けを底まで落とします。糸が出なくなったなと思ったら底に着いたってことれす」


62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 22:22:33.03 :64podORF0

「そして軽くとんとんって竿を動かして、当たりがないなら少しリールを巻いて……」

くいくいっと竿を動かしてリールを巻く七海ちゃん

そして……

「食ったれすよー!」

ぐいっと力強く竿を上げてリールを巻き始めました

それをはらはらしながら見守る私。七海ちゃんのほうが慣れているのに、変な感じです

そして数秒後、魚のシルエットが何匹も見えて……

「うん! 良い型の鰺れすね」

七海ちゃんの仕掛けには三匹も鯵が付いていたのです


63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 22:42:06.85 :64podORF0

「わぁ……凄い」

七海ちゃんが釣った味はとても大きくて、綺麗で、感嘆の声が漏れますが

「ほらほら、楓さんも早くするのれす」

いつもとは違う目つきの七海ちゃんの気迫に押され、たどたどしい手つきで仕掛けを海へと落とします

まずはベールを返して、糸をそのまま垂らす……

「あの……七海ちゃん、底に着いた感覚がわからないんだけど……」

糸が止まっているような感覚はあるのですが、いかんせん正解かわかりません

「んー……じゃあ糸を垂らしてゆっくり七秒カウントして見てください」


64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 22:48:30.80 :64podORF0

いーち、にーい、さーん……頭の中でカウントしてから七秒

「七秒経ちました……あれ? ぐいぐい引っ張られてるみたいな……」

手元に伝わる生き物が動いているような感覚

「それはきっと鯵が針を食ったのれすよー!」

さぁ、竿を上げてリールを巻くのれす! と七海ちゃんの言葉に竿をぐいっと上げてみると

先ほどより強い、生き物の力強い感覚

そこから無我夢中でリールを巻いてみると……

「おー! 良い型の鰺れすよ。それに、カサゴも付いてるのれす」

七海ちゃんの嬉しそうな声に、その生き物を釣るという感覚が両の手に重さとなって感じました


65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 22:57:48.50 :64podORF0

何と言葉にして良いのでしょうか

手に残るお魚の重み、そして余韻

「……これが釣りの醍醐味、ですか」

知らずに漏れた言葉に、七海ちゃんが反応します

「そうれすよー、楓さんの手に残る重みが命の重みなのれすから」

そう……なんですね。では……私はこれを受け止めなければいけません

「さぁ、まだ群れはいるので根こそぎ釣っちゃうのれす!」

「はいっ!」

七海ちゃんの言葉に力強く返事をして、また糸を垂らすのでした


66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 23:11:13.80 :64podORF0

「ふぅ……今日は大漁れした」

二つのクーラーボックスにぎゅうぎゅうに詰められたお魚たち

メインは鯵で、カサゴとサバがほんの少し

「七海が活〆したので、あとはお刺身でもなめろうでもアジフライでも何れもいけますよ」

あー、お刺身なら一日か二日熟成したほうがいいかもれす、と七海ちゃんが補足しました

「わかりました」

これだけいっぱい釣れたなら、皆さんにおすそ分けという事で……

いつものメンバーにラインを送ることにします


67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 23:17:12.00 :64podORF0

『酒の肴のお魚がたくさん釣れました。今日は鯵パーティーしませんか?』

自分で釣ってそのお魚を食べる……釣ったからにはその命を粗末にはしないのは良いことだと思います

食べられてしまうお魚には少し可哀想かとは思いますけれど……

せめてみんなで美味しく頂きますのでご勘弁を

「さぁ、帰るとするのれす」

七海ちゃんの声を合図にして、私たちは帰ることになったのですが

この手に残る感触と、このお魚たちを肴にして飲むことを想像すると

生唾がとまらないのでした……


おしまい


68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 23:19:44.82 :64podORF0

安価をくれた方に感謝を
そして読んでくれた方にも……

丼いっぱいになめろうをつくって、アジフライを作った日にはお酒が進みまくりでした
是非皆さんもお試しを!

飲みすぎみたいなので今日はここまでということで
明日はお昼過ぎには再開したいなーって




70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 13:32:13.70 :cMSkahuH0

こんにちは、それでは再開します
>>72の楓さんを


72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 13:33:12.83 :Ryepp8bsO
スーツアクター

73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 13:33:25.85 :XrAIPT+9O
日帰り手術

74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 13:33:53.26 :+P7Pr0ZEo
家電製品


80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 13:45:34.89 :cMSkahuH0

「高垣さん、少しお話よろしいですか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

相変わらず他人行儀なプロデューサーに、少し冷たく返事をします

「……仕事を取ってきたのですが、少し問題がありまして」

「どんなお仕事なんです?」

ちょっと困ったような表情のプロデューサーがゆっくりと口を開きます


81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 13:49:52.10 :cMSkahuH0

「戦隊ものの仕事なのですが……」

戦隊もの……日曜日に朝にやってるやつですね

光ちゃんが聞いたら喜びそうなお仕事です

色々な層に見られる番組なので、大きなお仕事のはず

けれど、プロデューサーの顔はあまり嬉しそうではなくて

「内容に問題が?」

ずずいとプロデューサーに近づいて質問します


82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 13:56:04.08 :cMSkahuH0

「ち、近いです……離れてください」

この人は表情が豊かで、とてもからかいがいのある人

「仕方いですね、では、その内容を教えてください」

これ以上困らせるのもいけないので、大人しく、渋々離れることにします

「ええと、監督からのお願いで、中の人もやってほしいとのことです」

中の人……?

「スーツアクター、女性なのでスーツアクトレスになりますかね。それを高垣さんにやって頂きたいと」


83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 14:02:00.15 :cMSkahuH0

「という事は……それが問題ということですね」

私は正直そっち方面に明るくないので、何が問題なのかわかりません

「ええ……アクションなどを自分で行うというのはとても危険なことなのですよ」

それからプロデューサーは丁寧に説明してくれました

あの手の作品は、中の人がアクションを代わって行っていること

そして、時には怪我をしてしまうときもあるとか……


84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 14:08:50.69 :cMSkahuH0

「もしも怪我をしてしまえば、アイドル活動に支障が出ます」

うーん、それは確かにそうなんですが

「それに、私が辛いです」

あら? それはどう受け取れば良いのでしょう

「ふふ……そんなに優しくされると嬉しいですね」

「あー……失言です。忘れてください、それで……」

プロデューサーが真剣な面持ちで、改めて私に質問をします

「この仕事を受けますか、それとも……」

もう私の気持ちは決まっています


85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 14:19:46.91 :cMSkahuH0

……………
…………
……

早まっちゃったかしら

「もちろん受けますよ」

そう、自信満々で返事をしてしまった

いえ……あの人が頑張って取ってきてくれたお仕事ですし

私にもきっと良い経験なるはず

「あ、楓さん!」

「ひゃいっ!?」

後ろから大きな声で名前を呼ばれて、引きつった声がでました


86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 14:33:38.80 :cMSkahuH0

「聞きましたよ、戦隊シリーズに出るって!」

振り向くと、そこには目をきらきらとさせた光ちゃん

「良いな良いなぁ! アタシも出たいなー」

小さい体を目いっぱい使って、ちょっと子犬みたいで可愛い

「ふふふ、光ちゃんも、きっと近いうちに出られるわ」

光ちゃんならきっと、カッコよくて可愛いヒーローになれるはずです


87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 14:42:06.93 :cMSkahuH0

色々な作品を見ていて知識もあるし、ポーズの真似もよくしてるし

……そうだ、近くにとっておきの先生がいましたね♪

「光ちゃん、いえ……光先生」

「か、楓さん?」

きっと光先生なら、私にどうあるべきかを教えてくれるはず

「私にヒーローを教えてください!」


88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 14:55:41.72 :cMSkahuH0

「なるほど……スーツも着るんですか」

光ちゃんが真剣な顔で悩んでいます

「楓さんはヒーローものって見たことありますか?」

「いいえ、あんまり……」

縁のないものと思っていたのですが、少しでも見ていればよかったかも

「よし! じゃあまずは見てみましょう、百聞は一見に如かずって言うし」

……なにやら鑑賞会の流れになっているような


89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 15:12:40.56 :cMSkahuH0

「うう……このシーンが泣けるんだよな」

「こんな結末が待っているなんて、可哀想……」

気付けば私も時間を忘れ、見入ってしまいました

シナリオも良く出来ているし、何より戦闘シーンが恰好良いです

こんなことならもっと早く見ていれば良かった

「ヒーローって凄いんだ、皆を勇気づけてくれる」

ぐっと拳を握って、光ちゃんが続けます

「戦う理由は色々あるけど、決してあきらめないし、くじけない」


90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 15:21:39.54 :cMSkahuH0

「だから……楓さんもくじけないでほしい」

「光ちゃん……」

「アタシが教えてあげられるのはこれくらい」

そう、そうね……壁に当たってもくじけない心

それはヒーロー以前に大切なものですよね

「ありがとう、光ちゃん」

小さな体を優しく抱きしめる

「わぁっ! は、恥ずかしいよ」

小さなヒーローに教わった気持ちで、私も頑張らないといけませんね♪


おしまい


91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 15:22:49.10 :cMSkahuH0

読んでくれた方に感謝を
ちょっと休憩します
夜から再開できる……かもです




93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 19:03:58.56 :cMSkahuH0

こんばんは、それでは再開でござい
それでは>>96の楓さんカモーン


94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 19:05:17.60 :qTIyH50nO
ダウナー

95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 19:06:23.73 :dERmfGssO
イケメン

96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 19:06:29.13 :+P7Pr0ZEo
プラグスーツ


101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 19:12:30.39 :cMSkahuH0

「エヴァの劇場版はいつやるんだろ……」

雑誌をめくっていた奈緒ちゃんが独り言ちています

「どうしたの? 奈緒ちゃん」

「わわっ! えーっと……アニメの劇場版なんですけど、新しいのはいつやるのかなーと」

独り言が聞かれてしまったのか、ちょっと困った顔の奈緒ちゃん

可愛らしい眉毛を八の字にして、照れています


102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 19:18:57.20 :cMSkahuH0

「エヴァって言うと……ロボットが怪獣と戦うやつだったような」

えいやっとパンチして見せます

「か、怪獣……まぁ大体あってますね、はい」

奈緒ちゃんはアニメが好きみたいで、比奈ちゃんとよくお話をしているのを見ます

「アニメって映画でもやってるのねぇ」

「何を言いますか、最近はいっぱい作品ありますよ。ジブリだってそうだし、君の名はだってそうです」

あ、そういえばそうでしたね


103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 19:23:48.26 :cMSkahuH0

「大人でも見られるアニメもたくさんありますし、楓さんもどうです?」

なるほど、そういうのを開拓するのも面白いかもしれません

「良いですね、じゃあ早速今日の夜にでも」

それを聞いた奈緒ちゃんの顔が、ぱあっと明るくなって

「流石楓さん、話がわかる♪」

奈緒ちゃんは未成年だからお酒はだめだけど、私はちょっと飲んじゃおうかしら


104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 19:28:02.01 :cMSkahuH0

「そうそう、話が戻りますけど、エヴァの続きが気になるんですよね」

奈緒ちゃんがそこまで気にしているのなら、きっと面白いのでしょう

「続きが見れないってのは、気になるわよね」

ドラマや小説、上手に次に続くように切って、続きを早く見たい気持ちにさせられてしまう

「そうなんですよ、はぁ……早くやんないかな」


105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 19:31:10.73 :cMSkahuH0

「奈緒ちゃん、そんなに気になるならエヴァを操縦する気持ちにでもなってみますか?」

「わっ! ち、ちひろさんか」

さっきと似たようなリアクションで奈緒ちゃんがびっくりしています

「はい、楓さんもお疲れ様です」

「お疲れ様です、ちひろさん」

ぺこりとお辞儀したちひろさんが、また奈緒ちゃんに話しかけます

「それで、どうです?」


106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 19:34:37.13 :cMSkahuH0

「どうですって言われても……なにをどうするのさ」

その言葉を聞いて、ちひろさんがにっこりと笑います

「ちょっと御幣がありましたね、プラグスーツ着てみませんか?」

ぷらぐすーつ?

「えっ? ちひろさん持ってんの?」

奈緒ちゃんが驚いてますが、私は何が何やら


107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 19:40:00.37 :cMSkahuH0

「ええ、見た目は完璧に再現できたモノを」

「マジか……ちょっと着てみたい気もするけど」

「あ、あの……ぷらぐすーつって何ですか?」

このまま蚊帳の外も嫌だったので、会話に混ざらせてもらいます

「あーっと、プラグスーツってのはエヴァに乗る時に着るものです」

「あ、よかったら楓さんも着てみてはいかがですか?」

奈緒ちゃんの説明と、ちひろさんの言葉に

「は、はい……?」

流されるように返事をしてしまいました


108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 19:48:07.42 :cMSkahuH0

「という事で、お二人のプラグスーツを持ってきました」

「はやっ!」

言うや否や、ちひろさんが迅速に準備を終えていました

両手に緑色と紫色のウェットスーツみたいなものを持っています

「それがぷらぐすーつですか?」

「ええ、緑色は楓さん。紫色のは奈緒ちゃん用です」

どうぞ、とちひろさんから手渡されました


109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 19:54:47.28 :cMSkahuH0

手渡されたそれはしっとりした手触りで、柔軟性がありそうな素材みたい

引っ張ると、ぐいっと伸びるみたいです

「わー! これ凄いなぁ、カヲル君仕様だ」

奈緒ちゃんはとても嬉しそうに飛び跳ねています

「さぁさぁ、更衣室で着替えてきてくださいねー」

ちひろさんも嬉しそうに笑って、奈緒ちゃんの背中を押しています

ん? 右手に何か持っているみたいですが、ここからは良く見えません


110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 20:01:21.53 :cMSkahuH0

私も奈緒ちゃんと一緒に着替えることになったわけですが……

「どうしたんです? 楓さん」

どことは言いませんが、ボリューム凄いです

「いえ、別に……」

「そ、そうですか」

そうです、私だって……私だって……

やめましょう、人間、今ある手札で勝負しなくちゃいけないんです


111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 20:07:03.81 :cMSkahuH0

気分を切り替えて、プラグスーツに袖を、袖を……

「これ着にくい!」

奈緒ちゃんが代弁してくれました

ぴっちりしていて、少しずつ着ていかないと……

「んっ……」

体に密着するような素材で、擦れると変な声が漏れてしまいます


113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 20:12:25.71 :cMSkahuH0

ふぅ……ようやく着れました

「か、楓さぁん……」

後ろから聞こえる奈緒ちゃんの切なそうな声

振り返ると、背中を大胆に開けたままの奈緒ちゃんが、困った顔をしています

「奈緒ちゃん、とってもセクシ-」

「わ、見ないでくださいっ! じゃなくて、背中のチャックを締めてくれませんか」

頬を赤く染めて、胸を抑えるようにしてお願いする奈緒ちゃんがとても可愛い


115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 20:19:34.18 :cMSkahuH0

「それじゃ、一気にいきましょー」

「わ、いきなり!?」

じぃっと気持ち良い音を立てて、チャックが締まりました

「は……ぁ、どうもです、楓さん」

ふるりと奈緒ちゃんが体を震わせます

ちょっと呼吸が荒いけど、どうしたのかしら?


116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 20:25:08.37 :cMSkahuH0

「わぁ……楓さん、スタイル良いですね」

私をじろじろと眺めて、ほうっと奈緒ちゃんが息を吐きます

「似合ってます?」

ちょっとポージング

「とっても! 着こなしがパないっす」

「ありがとう奈緒ちゃん。奈緒ちゃんもとっても似合ってるわ」

ボリューミーな感じが同性の私から見ても凄い

あ……今日は肉まん食べましょう


117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 20:29:07.98 :cMSkahuH0

「記念に一枚♪」

「わあっ! なにしてるんですか!?」

スマホのカメラで、記念にどうかなーと思ったの

「……別にいいですけど、凛と加蓮には絶対見せないで下さいね! 絶対ですよ!」

これはお決まりのフリというやつかしら?

とっても可愛いのに勿体ない……



おしまい


118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/07(日) 20:30:01.03 :cMSkahuH0

読んでくれた方に感謝を
今日はここまでです

続きは明日の夜くらい……かなぁ





122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 18:58:41.47 :6icwQ6lG0

それでは再開でござい
>>125の楓さんおいでませ


124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 19:03:28.62 :Z/moOE2AO

125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 19:03:30.95 :w4YmqNiy0
プロデューサー


127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 19:12:38.37 :6icwQ6lG0

「プロデューサー、お話があります」

「はい、何ですか?」

私の言葉に、キーボードを打ちながら答えるプロデューサー

むぅ……人と話すときは目を見てきちんと聞きましょう

「ふぅっ」

吐息を耳にかけるとプロデューサーが飛び跳ねました

口をぱくぱくさせながら、何が起こったかわからない顔をして


128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 19:14:42.24 :6icwQ6lG0

「あ、あんた何やってんだ……」

「ふうってしました」

別に変なことしてませんよ? ええ

「……はぁ、わかりました。それでお話とは?」

観念したのか、プロデューサーが私に向き合います

む、何ですかそのがっかりした顔は


129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 19:18:08.64 :6icwQ6lG0

こほんと、一つ咳ばらいをして、ゆっくりと口を開きます

「貴方は働きすぎです。よって、一週間のお休みを差し上げまーす♪」

わーぱちぱちー!

「……」

あら? 反応が薄いですね

「すみません、盛り上げが下手で……」

「え? そこじゃないですよ。ただ、うちに代わりのプロデューサーはいないじゃないですか」

流石プロデューサー、良い所に目をつけます


130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 19:20:42.81 :6icwQ6lG0

「私が「あ、私が代わりにやるとかは無しですよ」」

何なんですかこの人は……エスパーさんですか?

「……」

「はぁ、そんなことだろうとは思いましたけど」

「よよよ……」

「泣きまねをしても駄目ですよ」

……もっと演技力を磨かないと駄目みたいでした


131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 19:24:42.06 :6icwQ6lG0

「良いんですよ。俺は皆のために働くのが楽しいんですから」

「プロデューサー……」

そう、確かにこの人は皆のために頑張ってくれている

自分の身を削ってまでも……

誰よりも遅く帰るのに、誰よりも早く出社して

その証拠に、今こうして話している彼の目の下には濃いクマが出来ている


132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 19:28:10.57 :6icwQ6lG0

でも、この人はきっとわかっていないんです

その『皆』が彼のことをとても心配していることを

だから、だから……少しでもお休みを取ってほしい

「嫌なんです、空元気な貴方を見るのは……」

このままじゃ、きっと近いうちに彼は体を壊してしまう

だから、ここは無理やりにでも……


133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 19:31:20.06 :6icwQ6lG0

「楓さん……」

ごめんなさい、プロデューサー

私は悪い女です……

「え~い♪」

勢いよく彼の腕の中に飛び込む

「え……どうしたんです楓さ……」

「はい、笑ってくださいねー♪」

カメラを持ったちひろさんが、良いアングルでシャッターを切る


134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 19:34:16.83 :6icwQ6lG0

「あらあら、これは大変♪ オフィスラブですかー?」

「きゃあ♪ 見られちゃいましたー」

とんだ茶番ですが、知らない人が見ればどうなりますかね?

「……ああああ! はかったなちひろぉ!!」

どうやらプロデューサーも気付いたようです

頭が切れる所もとっても素敵ですよ♪


135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 19:39:51.43 :6icwQ6lG0

「さて、プロデューサーさん? 後はわかりますよね?」

いつもの優しい笑顔のちひろさん

このメンタルの強さは見習いたいところです

「……わかりました。休めば良いんでしょう」

「はい、その通りです」

ちひろさんの言葉の後に、プロデューサーがため息を吐いて

「ただし、一週間は長すぎます。三日で十分です」

私とちひろさんは目で合図を出して、それからゆっくりと頷きました


136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 19:43:18.64 :6icwQ6lG0

「それではもうお仕事は終わりです。帰っちゃってくださーい」

ぎゅうぎゅうとプロデューサーを押し出していくちひろさん

……良いな、私も混ざっちゃおうかしら

「楓さん」

「はい、なんでしょう?」

ちひろさんに押し出される前に、プロデューサーが真剣な面持ちで私に話しかける

「気を遣わせてすみません。それと、困ったらいつでも連絡を」

「……わかりました」

貴方は人が良すぎです、プロデューサー


137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 19:45:39.31 :6icwQ6lG0

「さて、作戦成功ですね」

「そう……ですね。こんなことに付き合わせてしまってすみません」

ちひろさんに深々と頭を下げます

「止めてください楓さん。無理やりにでも休ませる必要があったんですよ」

「……」

少し胸は痛むけれど、あの人のことを思えば仕方のないことです


138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 19:49:25.91 :6icwQ6lG0

「ところで楓さん?」

「何ですか」

笑顔のちひろさんが、すっと真顔になりました

「本当にプロデューサーの代わりを務めるんですか?」

あの人の代わり……

きっと私が思うより大変なことに違いない

けれど、私が頑張らないと、あの人がゆっくり休めないものね

「ちひろさんに迷惑をかけるかもしれませんが……よろしくお願いします」

ちひろさんはまたいつもの笑顔に戻って、頷いてくれました


139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 19:52:18.13 :6icwQ6lG0

プロデュース業一日めの朝

いつもより早く目覚まし時計が鳴りました

「……ね……む」

布団さんの暖かい抱擁から抜け出せません

ああ、私には心に決めた男性が……

「起きなきゃ……」

冷水で顔を洗い、濃いめのコーヒーを入れます

朝弱いのも直さなきゃいけないわね


140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 19:55:41.21 :6icwQ6lG0

「おはようございます」

冬の冷たく突き刺すような風を感じながら、事務所へ着きました

まだ誰もいない静かな事務所

いつもの賑やかさが嘘のようです

そして……

いつもの席に、いつもの人はいませんでした


141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 20:00:16.27 :6icwQ6lG0

「おはようございます」

「おはようございまー!」

しばらくしてから、ちひろさんと元気な声が事務所に響きます

「おはようございます、ちひろさん。それと薫ちゃん」

「楓さん、何だかせんせぇみたいなカッコしてる」

「ええ、先生代理です。えっへん♪」

おおーと、薫ちゃんが拍手をくれました


142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 20:05:40.80 :6icwQ6lG0

…………
………
……
「つ、疲れました」

スケジューリング、年少組の送迎、そして付き添い

これじゃ体がいくつあっても足りません……

こんな過酷なことを一人で毎日やってたんですね

申し訳なさと、悔しさで、視界が徐々に滲んでいく

「……あの人が帰ってくるまで頑張らなきゃ」

頬をぴしゃりと叩き、背筋を伸ばします

明日に備えて準備しましょう


143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 20:10:57.89 :6icwQ6lG0

一日目、二日目と、何とか無事に終わり

そして、三日目

「楓さん、ドリンクの差し入れです」

ちひろさんが見たことのないようなドリンクを差し入れてくれました

「ありがとう……ございます」

それを飲むと、少し体力が回復したみたいで

「それでは、現場を見に行ってきます」

「はい、お気をつけて」

さて、今日も頑張って乗り切りましょう


144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 20:15:53.45 :6icwQ6lG0

今日は確か加蓮ちゃんのロケを見に行って、それから……

タクシーの中で手帳に目を通し、確認を行います

車の揺れが心地よくて、つい寝そうになりますが、足をきゅっと抓って我慢

「……元気にしてますか?」

誰にも聞かれない独り言

無意識に出た言葉に、心が折れそうになって

負けないように、くじけないように

そっと自分を抱きしめた


145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 20:22:59.25 :6icwQ6lG0

加蓮ちゃんの現場に着くと、何やら変な空気に気付く

怒声が響き、周りが止めているみたいだけれど……

そして、もう一回その声が聞こえた時、それが誰の声なのか確信しました

間違いなく加蓮ちゃんの声

スタッフの人たちをすり抜け、加蓮ちゃんを見つけ……たのですが

そこにいる加蓮ちゃんは私が見たこともないほど怒っているようで

その怒りの矛先を確認しみると

……まずいです、それなりの大物俳優でした


146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 20:27:48.03 :6icwQ6lG0

「ふざけないで! アンタ何様なの!!」

「うるせーお子様だな、耳がいてぇや」

相手の飄々とした態度に、加蓮ちゃんはぷるぷる震えた後

「このっ……!」

右手を大きく振りかぶり、相手を叩こうとして

「待って加蓮ちゃん」

「止めないで! って、楓さん?」

後ろから抱き留める形で何とか止めることができました


147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 20:31:20.47 :6icwQ6lG0

「な、何で……あ、そうか」

良かった、まだ話はできる状態みたい

「落ち着いて、ね? それから話を聞かせてもらえるかしら」

私の言葉を聞くと、加蓮ちゃんがきっと相手を睨み付ける

「最近のガキは怖えなぁ」

ひゃっひゃっと笑う相手に、わたしも不快感を覚えました

ですが、状況がわからないことにはどうしようもありません

「そのガキのっ……お、お尻触ったのはどこのどいつよ!」

なるほど、そういうことですか


148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 20:34:52.98 :6icwQ6lG0

「この度はうちの北条がお騒がせして申し訳ありません」

深く頭を下げます

「待ってよ楓さん! なんでこんな奴に頭下げてんの?」

加蓮ちゃんの言いたいことはごもっとも

けれど、今はこうして頭を下げなくちゃいけないの

「へぇ……アンタは話がわかるみたいじゃないか」

じろじろと、まるで値踏みされているかの視線を感じる


149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 20:39:13.20 :6icwQ6lG0

「北条に代わり、お詫び申し上げます」

もう一度頭を下げると、相手が近づいてきます

「そうか、俺も悪かった。すまん」

あら? 案外話が通じる人なのかしら

ともあれ、これで終わ……

「でもよ」

はっとして頭を上げると、とても醜い笑顔を浮かべていて

「この子のせいで耳がやられちまった」


150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 20:41:19.45 :6icwQ6lG0

「こりゃ慰謝料が必要じゃねえのかな」

にたにたと、下卑た笑いで

「それともよ」

私の横に立つと、ぐいっと肩を抱かれて

「アンタと遊ぶのも面白そうだな」

周りに聞こえないように、ぼそりと呟きました


151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 20:44:50.92 :6icwQ6lG0

どうしよう、どうしたらいいの……?

あの人ならどうやって解決するの

いつも傍にいてくれるあの人なら、私を守ってくれるあの人なら

頭がパニックになって、体が震えているのがわかる

「なに、酷いようにはしねぇよ。な?」

……怖い、力が強くて逃げ出せないし、ただ怖い

皆の為に頑張るって約束したのに……ごめんなさい、プロデューサー


152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 20:50:40.87 :6icwQ6lG0

「そろそろ勘弁してもらえないでしょうか?」

聞こえないはずの声が聞こえる

「こちらとしても大事にはしたくないんですよねぇ」

そして、いないはずのあの人が、いる……

「そうそう、うちの北条の体を触ったらしいじゃないですか」

私を強引に引っ張って、相手から引き離してくれた

「困るんですよねぇ、うちのアイドルはそんなに安くないんです」

全部の感情がぐちゃぐちゃになって、涙が零れるのがわかった


153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 20:53:31.92 :6icwQ6lG0

「はい、コーヒーです」

「ありがとう、ございます……」

缶コーヒーの暖かさが手に染みる

「いやぁ、災難でしたね」

困ったように笑うあの人に、安心して

「怖かった、です」

肩に頭を預ける


154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 21:00:28.57 :6icwQ6lG0

「もう大丈夫です、もう楓さんは頑張らなくていいんですよ」

「プロデューサー、でも……私」

あの人の人差し指が私の声を遮る

「大変でしたね、慣れないことをさせてすみませんでした」

こんな時でも人のことを心配するんなんて、お人好しすぎます

「ばか」

「ばかで良いです、じゃないと楓さんたちを守れませんし」

その声はとても優しくて、嬉しくて

「もう少しだけ、このままで……」

「ええ。楓さんの気が済むまで」

今はこの気分に浸らせてください



おしまい


156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 21:02:54.30 :6icwQ6lG0

とうことで今日はおしまいです
読んでくれた方に感謝を
明日は書く時間ないので、続きは明後日です





159 :1です :2018/01/10(水) 19:52:38.82 :XlY+xCL50

こんばんは、それでは再開でござい
それでは>>162の楓さんどうぞー


162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 19:55:42.13 :XIxU3c3F0
幽体離脱

163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 19:55:43.78 :JrghBCIpO
男装


165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 20:07:13.57 :XlY+xCL50

お仕事が終わって、家に着いたのは午後七時過ぎ

お腹もそんなに空いていないので

夕飯はお酒とちょっとしたおつまみで済ませてしまおう、と思います

今日はハイボールの気分なので、そんなにお高くないものをソーダ割りに

おつまみは枝付きレーズンとチーズ、それとクラッカー

手慣れた手つきでウィスキーを計ってソーダを注ぐ

炭酸がパチパチと弾けて、早く飲んでと急かしているみたい


166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 20:10:30.79 :XlY+xCL50

今日もお疲れ様でした、乾杯

心の中で乾杯をして、まずはハイボールを一口

ん~、今日も美味しくできてます♪

おつまみも摘まんで、どんどんとお酒が進み

何杯飲んだかわからなくなった頃、あくびが出てきたので今日はこの一杯でおしまいと決めます

グラスとおつまみを入れた食器を洗って、次は自分の体を綺麗にするためにバスルームへ


167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 20:14:24.80 :XlY+xCL50

お酒を入れた体でお風呂に入るのは本当はいけないのですが、やっぱりお風呂に入ってから寝たいです

お風呂から出た後、ぽかぽかとした体のまま明日の準備

髪も乾かして、歯も磨いて、アラームもセットして

後はお布団に優しく包まれて明日の朝までぐっすり

の、はずだったんです……


168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 20:19:16.00 :XlY+xCL50

意識もまどろんで、起きているのか寝ているのかわからなくなる頃合い

明日もプロデューサーとお仕事頑張ろう、なんて思っていると、何だかふわふわとしているような変な感覚

無重力を体験したことはないんですが、きっとこれがそうなのかな? なんてことを思いました

ゆっくりと自分の体が、自分の体が……あら? 下にいるのは私? それじゃふわふわしている私はなぁに?

ふわふわしているはずなのに、見下ろすと自分の体はベッドの中です

夢なのかしらと自分のほっぺをつねろうとしてみると……

感覚はあるはずなのに、自分の手はほっぺをすり抜けるだけ


169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 20:23:30.77 :XlY+xCL50

むぅ……ほっぺをつねらないと夢かわからないじゃない

何て、冗談を言ってみますが、私の置かれている状況は変わりません

しばらくの間、自分の体をいじくりまわそうとしますが、まるで空気のように触ることができない

下にいる自分を触ろうとしても、空を切るばかり

……もしかして、もしかしてですよ? これは俗にいう幽体離脱というものでは?

大変な経験をしているのに、頭はどこか冷静で、落ち着いている自分がいます


170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 20:26:48.89 :XlY+xCL50

どうしましょう、元に体に戻ることもできませんし……

空中で正座をしながら、頭を悩ませます

んー……そうだ! 今の体が物をすり抜けるというのなら

どなたかのお部屋に突撃幽体離脱を仕掛けてみましょう♪

自分でも何を言っているかわかりませんが、もう流れに身を任せます

「ゴー♪ すっと、ね」

幽霊じゃないですけど、これは目を瞑ります


171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 20:31:01.46 :XlY+xCL50

さて、突撃するのはいいのですが、誰のお部屋にしましょうか

菜々ちゃんのお部屋も気にはなるのですが……

やっぱりここは、プロデューサーのお部屋ですかね♪

善は急げ、といいますし、プロデューサーのお部屋までひとっとび~

部屋の壁を通り抜けて、いざ! と気分が乗ってきたところですが

そんな便利はことはできずに、満点の冬空の下を文字通り歩くことになりました


172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 20:34:52.20 :XlY+xCL50

上を見れば静かに輝く星とお月さま

下を見れば人口の光が目を楽しませてくれます

不思議と高さによる恐怖心はまったくなくて

それに、こんなに寒い夜なのにまるで寒さを感じません

快適なウォーキングを堪能して、少しはカロリー消費できたのかしら?

交通機関も使わずに、プロデューサーのお部屋まで一直線で向かいます


173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 20:37:26.80 :XlY+xCL50

確か、この辺りのマンションだったはず……

上からの視点のせいか、建物の判別がつきにくいです

ちょっと下ってみましょうか

階段を下りるようにして、上から横の視点になってから、ようやくお目当てのマンションを見つけました

あ、このマンションですね♪

ええと、三階の角部屋は……ここです


174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 20:40:18.81 :XlY+xCL50

「おじゃまします」

夜なので、控えめに

きっと、大きな声をだしてもプロデューサーには聞こえないでしょうが

ドアをすり抜けて廊下をゆっくりと歩きます

電気はついているのでまだ起きていると思うのですが……

あ、プロデューサーを発見しました


175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 20:43:18.15 :XlY+xCL50

パソコンデスクに座って、作業しているみたい

「こんばんは、プロデューサー」

挨拶をしてみますが、帰ってくるのはキーボードを叩く音だけ

挨拶が帰ってこないのは寂しいですね……

今は仕方ないのです、我慢です、ぐすん

それにしても、綺麗にしてあるお部屋ですね

前に私がお邪魔した時も綺麗でしたが、普段からだったんですね


176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 20:51:48.63 :XlY+xCL50

しばらくお部屋の中を歩き回ってみますが、飽きてしまいました

触ろうとしてもすり抜けてしまうので、仕方ありません

手持ち無沙汰になった私は、プロデューサーのお仕事の邪魔にならないように

ふよふよと浮きながら正座をして、お仕事を見守ることにしました

こっそりとパソコンの画面をのぞき込むと、そこにはたくさんの文字が並んでいます

ほうほう、これはLIVEのプレゼンでもするのでしょうか

箱を抑えたり、物品販売での予想できる売り上げなど、事細かに書かれています


177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 20:55:59.89 :XlY+xCL50

どうやらこれは大きなLIVEのようですね、予算の桁が物凄いです

これだけのお金があれば美味しいお酒が山ほど買えるくらい

日替わりで名酒を堪能する……良いですね

似たようなことができないか進言してみましょう

大きなLIVEなのはわかったのですが、誰のLIVEなのか

気になった私は、食い入るように画面を見続けます


178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 21:02:24.88 :XlY+xCL50

ふむふむ、高垣楓単独LIVE用資料

なるほど、この資料は高垣さんのものなんですね

……あ、それ私じゃないですか

「プロデューサー? こんな大舞台、私に頂けるんですか?」

独り言、誰にも聞こえないはずの独り言、のはず

けれど

「楓さん、これでようやく舞台が整いましたよ」

プロデューサーの返事が的確すぎて、変な声が出てしまいました


180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 21:07:33.03 :XlY+xCL50

「聞こえているんですか……?」

そっと、プロデューサーに返してみますが

「とは言っても、これが通らなかったらキツイよな……」

もう! 勘違いしちゃったじゃないですか

やっぱりプロデューサーには聞こえていませんでした

「いや、これは絶対成功させないと」

けれど、プロデューサーの真摯な声は聞けることができました


181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 21:13:51.89 :XlY+xCL50

少しだけプロデューサーに近づきます

「今まで頑張ってきた集大成だもんな」

二人で頑張って……いいえ、周りの方たちと一緒に頑張ってきました

「やっと、ここまでこれたんだ。きっと、いや、絶対成功させてみせる」

そういうセリフは面と向かって言ってほしいな

「独り言多すぎです。それに、私にきちんと言ってくださいね?」

「あはは、それもそうですね。……あれ?」

今度こそ本当に、プロデューサーが私の声に反応した


182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 21:17:46.43 :XlY+xCL50

「楓さん?」

「……」

私を探すような素振りをするプロデューサー

当の私は息が聞こえないように、両手で口を塞いでいました

それに何の意味もないはずなのに

「気のせいか……ともかく、期待しててくださいね楓さん」

そう言うプロデューサーの顔は自信に満ちていて、それでいて子供の様に可愛い笑顔で

何だか気恥ずかしくなって、逃げるようにプロデューサーの部屋を通り過ぎて、また星空の下へ


183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 21:24:28.56 :XlY+xCL50

「私の単独LIVE……」

星空の下で気持ちを整理させる

なのに、体の中心がぽかぽかとして、鼓動が早くなる

「頑張らないと、いけませんね」

私の為に頑張ってくれている、そう思うと嬉しくなって、自然に顔が笑顔になる

「見ていてください。貴方のためにもっと輝いて見せますよ」

たくさんの星空の下、私はそう宣言をしました


184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 21:27:59.26 :XlY+xCL50

アラームの電子音を耳に感じると、いつの間にベッドの中

正確にはずっとベッドの中だったんですけど、こんがらがります……

いつも通り朝の支度をして、事務所へと向かいます

「おはようございます」

いつも通りの朝の挨拶

そして、プロデューサーを見つけて私はこう言うんです

「今日も一緒にお仕事できますね♪ わーくわくします」


おしまい


185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 21:29:16.50 :XlY+xCL50

読んでくれた方に感謝を
ちょっと休憩します

今日はもう一つくらい書けそうな予感!





186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 22:43:03.70 :XlY+xCL50

再開でござい
>>188の楓さんいらっしゃいませ


188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 22:44:11.07 :c470yVHB0
ゲーマー


190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 22:47:40.20 :nBEqdcgKo

紗南ちゃん再びなのか、他のアイドル(例えば中の人ゲーマーでりーなor飛鳥、紗南に布教されてる早耶)になるのか


191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 22:58:10.23 :XlY+xCL50

「あっ、待って……待ってください」

私の懇願を無視して、相手のペンキが私を……

最近のゲームって難しいんですね、すぐやられちゃいます

これちょっと理不尽じゃないですか? なんでペンキでやられちゃうんです?

そもそもイカって……焼いて食べちゃいますよ?

「ふぅ……」

落ち着きましょう、ゲームに怒っても勝てるわけじゃありませんから


192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 23:10:10.66 :XlY+xCL50

さぁ、気を取り直してもう一戦いってみましょう

気持ちを切り替えて、マッチングを待っていると

「おはようございまっス」

ふわぁ、と大きなあくびと共に比奈ちゃんが事務所に入ってきました

「おはようございます、比奈ちゃん」

「おはようございまス。おや、イカさんのゲームですか?」

ふらふらとまるでゾンビのような足取りで比奈ちゃんがこちらへと向かってきます


193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 23:13:41.97 :XlY+xCL50

「ええ、これがなかなか難しくて……」

ハードの角度を変えると、ついつい自分の体の角度も変わっちゃう

「あー、楓さんのキャラがペンキまみれに」

比奈ちゃんは自分の言葉の後に、はっと何かに気付いたようで

「楓さんのキャラが……ペンキ……ぶっかけ」

単語だけしか聞き取れないので、内容がわかりません


194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 23:16:03.45 :XlY+xCL50

「良い……良いっすよ! 楓さん頑張ってください」

先ほどとはうって変わってテンションが上がっている比奈ちゃんをよそに

「ああ……またやられちゃいました」

相手のペンキを受けて私のキャラが……

「そう、ソレで良いんっスよ」

はて? これはやられるのが趣旨のゲームじゃないですよね?


195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 23:22:22.37 :XlY+xCL50

「比奈ちゃん、それってどういう……」

「あーっと、敵が! 突撃っスよー」

私の質問に返事を返さず、鼻息荒くぶつかっていくことを伝えてくる

「そうは言っても……」

相手は私の死角を上手く突いて攻撃してくるし

まるでこっちのペンキがあたらないしでどうしようもない


196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 23:25:24.55 :XlY+xCL50

「待って……そんなにペンキをかけられちゃうと」

キャラクターに感情移入をしてしまって、まるで自分がペンキをかけられている気分になる

「良い反応っスよ楓さん!」

どこからか取り出したメモ帳に、なにやら走り書きをしている

「比奈ちゃん、何かアドバイスしてくれません?」

「いやぁ、アタシは見る専門なんで……」

むぅ……そんなのずるいです


197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 23:27:50.22 :XlY+xCL50

しかし、相手の人は私だけを攻撃してくる気がする

「んー……楓さん、鴨られちゃってますかね」

ペンの動きをぴたりと止めて、比奈ちゃんがうーんと唸る

「なんだか執拗に攻撃してきて、ああっ! また……」

そんなにペンキ塗れにされちゃうと、お風呂大変なんだから


198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 23:31:09.57 :XlY+xCL50

あたふたとゲームをプレイしている私を見かねてか、比奈ちゃんが口を開く

「ちょいとアタシに変わってくれませんか?」

「いいけれど、比奈ちゃんさっき見る専門って……」

恐る恐る貸すと、比奈ちゃんは優しく笑みを浮かべて

「それは謝るっス、良いモノ見せてもらったので、そのお礼ということで」

ジャージの袖をまくり、ぺろりと舌を出す比奈ちゃんの表情が変わった


199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 23:42:27.14 :XlY+xCL50

「さぁて、いっちょ反撃と行くっスよ」

いつもの穏やかな瞳をギラギラと輝かせ

明らかに慣れた手つきで相手を攻撃していく比奈ちゃん

「うーん、ぶっかけるってのも気持ち良いものなんスね」

ペンキをたくさん浴びせて何やらご満悦みたい

「比奈ちゃん、お上手なのね」

「同人やってる身としては、こういう流行り物は抑えておくもんっス」


200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 23:48:37.51 :XlY+xCL50

「これで終わりっスよ」

鮮やかに相手を倒して、結果的にこちらのチームの勝ちとなりました

「へへーん、どんなもんっスか」

えへんと、ボリュームがある胸を張る比奈ちゃん

「ありがとう、比奈ちゃん」

「いえいえ、どういたしましてっス。これはお礼なんで」


201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 23:52:44.68 :XlY+xCL50

「ふふ……じゃあ今度は2人でやるゲームでもやりましょうか」

うーんと、あったあった

「昔のゲームならたくさんあるし、今やっても面白いの」

「か、楓さん?」

どさりとゲームを取り出すと、比奈ちゃんが驚いたような顔をしている

「くにおくんとか、キン肉マンとか、たーくさん♪」

シンプルで私でも楽しめるし、二人でやってももちろん楽しい


202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 23:57:05.07 :XlY+xCL50

「わ、年季が入ったハードっスね」

「今でもきちんと動くし、現役です♪」

いわゆるレトロゲーってものだけど、前知識なんていらないものばかり

「わ、これなんて実際に見たの初めてっスよ」

ひとつのソフトをまじまじと見つめる比奈ちゃんに

「じゃあ、それにしましょう」

私は比奈ちゃんの先輩なんだから、今度こそ



こてんぱんにやられちゃいました……


おしまい


203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/10(水) 23:57:54.41 :XlY+xCL50

読んでくれた方に感謝を
今日はここでおしまいっス
続きは明日の夜くらいー





208 :1です :2018/01/11(木) 19:17:11.45 :6fW26oaH0

今日も寒いですけど再開します
それでは>>210の楓さんどうぞー


210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 19:18:09.29 :4QxzZTz00
Pの妻


212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 19:26:38.18 :6fW26oaH0

カーテンから差し込む朝日で目が覚めます

「ん……ふぅ」

体を起こして、伸びを1つ

寝ぼけまなこで時間の確認

アラームが鳴るまであと五分少々

今日は私の声であの人を起こしてあげることにします

それまで少し時間があるので、少し観察してみましょう


213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 19:29:37.59 :6fW26oaH0

私の旦那様はまだぐっすりと寝ています

すぅすぅと寝息をたてて、気持ちよさそう

あ、ちょっとおひげが伸びてますね

「……」

起こさない程度に、おひげに手を伸ばします

じょりじょりとした、何とも言えない感触

……なんだか癖になる感じです


214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 19:34:11.49 :6fW26oaH0

「~♪」

普段は凛々しいお顔なのに、寝ている時は子供みたい

おひげから手を放して、髪の毛に触れます

よしよし、と子供をあやすみたいに軽く撫でる

ふわりと香る、私と同じのシャンプーの匂いが、なぜか嬉しい

小さなことですけど、一緒になれたんだな、と実感します


215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 19:38:47.80 :6fW26oaH0

嬉しい感情に浸っていると、いつの間にか起きる時間

「あなた、そろそろ時間です」

肩を軽く揺らして声を掛けます

「……あと五分」

なんて、テンプレートな返事

「……ちゅーしちゃいますよ?」

「良いよー」

あ、冗談だと思ってますね? 私はやるときはやっちゃいますよ


216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 19:41:28.36 :6fW26oaH0

がしりと顔を掴んで、お望み通りのキス

「ん……」

「……!!」

びっくりした顔で旦那様がようやく起きてくれました

大丈夫です、少しくらいじゃれあってても遅刻しませんから

……流石にこれ以上の事は遅刻しちゃいますけどね


217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 19:44:54.35 :6fW26oaH0

「おはようございます♪」

「おはよう、楓さん」

夫婦向かい合って、朝の挨拶

挨拶はコミュニケーションの基本ですよね

「私は朝食の準備をしてきますね」

「ああ、頼むよ」

さぁ一日の始まりです、今日も元気にいきましょう♪


218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 19:49:53.27 :6fW26oaH0

顔を洗ってパジャマから着替えて

それから、エプロンをつける

エプロンをつけると気合いが入りますね。おー! って感じで

今日の朝ごはんは……ハムエッグとお味噌汁とお漬物

じゅうじゅうとハムと卵がフライパンで焼ける匂い

やっぱり半熟ですよ半熟、とろりとした黄身とハムが一緒になると……

ご飯もたくさん炊けてますので、いっぱい食べてもらいましょう


219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 19:56:46.67 :6fW26oaH0

鼻歌交じりに調理していると

何やら後ろから控えめなスリッパの音

なるべく音を立てないようにしながら、ゆっくりとこちらに近づいているみたい

これは気付かないふりをしていてあげましょうか

危なくないように、さりげなくシンクの前まで移動してみます

ちょうど私の後ろでスリッパの音が止まって、そろそろかしら

「今日の朝ごはんは?」

ぎゅっと逞しい腕が私を抱き留める


220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 20:00:16.11 :6fW26oaH0

「ハムエッグとお味噌汁とお漬物です」

「そっか、できるまでこうしていい?」

返事は聞かないとばかりに、腕の力は弱まりません

大きな甘えん坊さんですね

「帰ってきたらいくらでも。でも、今はだーめ♪」

くるりと振り返って、抱きしめ返しました


221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 20:07:25.92 :6fW26oaH0

「残念、じゃあ少しだけってことで」

「私も残念ですよ、本当に」

身長が高い私ですが、それでもすっぽりと収まってしまう旦那様の体

「あったかいですね」

「うん。それに楓さんの体が柔らかくて気持ち良い」

柔らかい? それは誉め言葉なんでしょうか、アイドルを止めてから体重の変化はない、はず……


222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 20:10:59.36 :6fW26oaH0

胸板にすりすりしてみたりして

「~♪」

「あー……仕事休んじゃおうかな」

む、それは駄目です

「ちひろさんに迷惑かかっちゃいますよ? それに他のアイドルの子たちにも」

「冗談だよ。半分は、ね」

悪戯っ子みたいな笑みで言われて、私もつられて笑っちゃいました


223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 20:14:42.59 :6fW26oaH0

「……楓さん、なんか焦げ臭くない?」

言われてみれば焦げた匂いが……

はっとして、フライパンの蓋を開けてみると

それはもう真っ黒こげなハムエッグだったものがありました

「ごめんなさい、あなた」

「俺のせいでもあるから……ごめん」

今日の朝ごはんが少しシンプルになってしまいました


224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 20:19:59.31 :6fW26oaH0

「ごちそうさまでした」

「おそまつさまです」

今度は気をつけますから、ごめんなさいハムエッグさん

心の中でお祈りを捧げます

私は食器の片づけをして、旦那様は朝の準備の最終段階です

歯も磨いて、ジャケットも羽織って、ネクタイも曲がってませんね

「それじゃ、行ってきます」

「いってらっしゃい」

ほっぺに軽くキスをして、お見送りしました


225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 20:32:53.27 :6fW26oaH0

ドアが閉まるまで手を振って

ぱたりとした音が鳴れば、私はお家で一人ぼっち

……いけないいけない、気持ちを切り替えて家事をしなくちゃ

今日は良いお天気なので、いーっぱいお洗濯しちゃいましょう

ベッドのシーツにお洋服、お気に入りの匂いの洗剤と柔軟剤で洗っちゃいます

次は、お掃除しましょうかね

綺麗なままを保つって気持ち良いものですし


226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 20:37:25.39 :6fW26oaH0

……暇になっちゃいました

お洗濯もお掃除もお昼前に終わって、手持無沙汰

お買い物もまだいかなくていいし、どうやって時間をつぶしましょうかね……

とりあえず、お茶にしますか

こういう時間は主婦の特権、ですよね? ね?

テレビをつけて、チャンネルを切り替えていると聞きなれた声が聞こえてきました

あら、川島さんと美優ちゃんですか


227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 20:48:24.46 :6fW26oaH0

ふむふむ、お店を巡る番組みたいですね

あ、このお店素敵。あの人がお休みの時に行ってみようかな

とても楽しそうな二人の掛け合いが面白くて、つい見入っちゃいます

二人とも変わらないみたいで安心しました

もう一緒にお仕事をすることはないでしょうけど、近いうちに遊びたいですね

ほっこりした気持ちのまま、しばらく二人の番組を見させてもらった


228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 20:53:29.95 :6fW26oaH0

…………
………
……

空が茜ちゃん色に染まってきました

よし、そろそろお夕飯の支度をしておきましょうかね

今日は寒いので暖かいものが良さそう

温かくて、美味しくて、栄養があるもの……

お鍋……? お鍋にしましょう、それとお酒もつけましょう


229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 20:57:26.95 :6fW26oaH0

お野菜をたくさん切りましてー

白菜、人参、おネギにしいたけ

鶏肉も入れましてー

白滝もも入れるのでしてー

あら、芳乃ちゃんみたいになっちゃいました

それから、もちろんお酒も用意するのでして―♪


230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 21:02:33.42 :6fW26oaH0

火が通りにくい食材は先に火を通しておいてっと

後は旦那様が帰ってきてから、土鍋で仕上げましょう

窓の外を見てみると、茜ちゃん色の空は濃い群青色に

群青色……凛ちゃんは青だし、蘭子ちゃんは黒かしら

頭を捻っていると、スマートフォンが振動します

『あと少しで家に着くよ』

画面には旦那様からのシンプルな連絡


231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 21:07:22.16 :6fW26oaH0

一文だけの文章ですが、とても嬉しい

早く帰ってこないかな、お鍋美味しいっていってくれるかな

お酒も飲んで、今日のお仕事のお話もいっぱい聞きましょう

何だかそわそわしてしまって、まるで飼い主を待つワンちゃんみたいな気分

私にしっぽがあれば、きっと振り切れちゃうくらいぶんぶんと振っているでしょうね

それが面白くて、1人で笑っちゃいます


232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 21:14:26.57 :6fW26oaH0

しばらくすると、インターホンが鳴ります

続いて、愛しい待ち人の声

そわそわとドキドキを隠し切れないまま玄関に向かって

「おかえりなさい、あなた♪」

「ただいま、楓さん」

きっと私は満面の笑みを浮かべているはずです

だって、これからまた二人の時間になると思うと

幸せな気持ちで胸がいっぱいなんですから


おしまい


233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/11(木) 21:16:01.81 :6fW26oaH0

読んでくれた方に感謝を
今日はこれでおしまいです
続きは明日の夜くらいに書けたらいいなぁ





236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 19:44:00.09 :Y3ej0G/Z0

寒い! こんな日は熱燗!
ということで再開でござい
それでは>>239の楓さんどぞ


237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 19:45:59.63 :guJhpmSjo
海苔

238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 19:46:01.09 :T6gvYyDSO
白夜

239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 19:46:06.35 :GSeCxM7UO
フルフェイスヘルメット


242 :あ、1です :2018/01/12(金) 19:51:13.56 :Y3ej0G/Z0

フルフェイスヘルメットな楓さんですか
ちょっと書いてみます


243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 19:55:10.37 :Y3ej0G/Z0

「これはヘルメット……?」

顔がすっぽり隠せるもの、いわゆるフルフェイスというものです

それがテーブルの上にぽつんと置かれていて、添え書きが一枚

被るな危険!! の文字

これはフリというやつですか? 本当は被ってってことですか?

どこかでカメラが回ってたりしませんよね

きょろりと事務所を見わたしますが、それらしいものはありませんでした


245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 19:59:10.28 :Y3ej0G/Z0

どうしましょう、放っておいてもいいんですけど

ちょっとだけ被ってみたいという好奇心も……

ちょっとだけ、ちょっとだけなら……怒られませんよね

女は度胸です、ということで

「いきます」

メットをえいっ! と被ってみました


246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 20:03:58.57 :Y3ej0G/Z0

あら、真っ暗

まっくらくらで前が見えません

これじゃ意味がないんじゃ……

メットを取ろうとした、その時です

『あ、被っちゃったんですか?』

私の声……?

声と同時に、まるでブラウン管がゆっくりとついていくように、目の前が鮮明に見えるようになりました


247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 20:08:05.14 :Y3ej0G/Z0

『狭い所ですが、ようこそ』

「いえいえ、良い被り心地ですよ」

私の声に返事をするというのも変な感じですが

「そもそもこれ……貴方はなんなんです?」

疑問に思っていたことを口にしてみます

そもそも、会話できるメットなんて聞いたことがありませんし


248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 20:13:26.87 :Y3ej0G/Z0

『よくぞ聞いてくれました! 私はとある方に作ってもらった凄いヘルメットなんです。えっへん!』

なるほど、凄いヘルメットさんですか

「凄いヘルメットさんはどこか凄いんですか?」

『えっ? どう凄いと聞かれましても……』

もの凄く人間臭いヘルメットさんのようです

『……』

『……お酒の銘柄を当てられる?』

まぁ、素晴らしい凄さですね♪


249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 20:19:05.81 :Y3ej0G/Z0

「それはどんなお酒でも大丈夫なんですか?」

『それはもちろん! 私の分析力は凄いんですから』

声は私と同じですが、何だか李衣菜ちゃんと喋っているような感じがしました

それにしても、利き酒ができるなんて凄いです

「コツはあるんですか?」

『すっと解析してばーんと当てるんです』

……私には少し難しいみたいです


250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 20:26:35.82 :Y3ej0G/Z0

「もっと凄いところを聞いてみたいです」

『良いですよー、次はですね……』

わくわくして返事を待っていると

「誰かヘルメットを見なかったか!」

物凄い勢いで晶葉ちゃんが事務所のドアが開けました

「どうしたの? 晶葉ちゃん」

「だ、だれだ!? あ、そのヘルメットを被ってしまったのか……」

びっくりした顔から、がっかりした顔に変わる晶葉ちゃん


251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 20:29:15.39 :Y3ej0G/Z0

「私です。楓ですよ」

「よりによって楓さんとはな……」

む……やっぱり被っちゃいけないものだったのでしょうか

『あ、この方ですよ。私を作ったの』

凄いヘルメットさんがそう教えてくれました

「その、ごめんなさい……好奇心に負けちゃって」

こういう時は素直に謝るに限ります


252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 20:34:06.44 :Y3ej0G/Z0

「いや、別にいいんだが……どこか変なところありませんか?」

変なところ……特にないとは思います

「今のところは特に。かぶり心地も良いですし、凄いヘルメットさんはとても面白い方ですよ」

「凄いヘルメットさん……? ああ、そのメットのことか」

会話できるヘルメットを作れるなんて晶葉ちゃんは凄いですね

「ところで楓さん、それは取ることができますか?」

「それはもちろん」

ヘルメットを取ろうとして、取ろうと……あら?

いくら力を入れても、凄いヘルメットさんを取ることができません


253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 20:42:13.98 :Y3ej0G/Z0

「やっぱりか……」

やっぱりって……うぬぬぬ! やっぱり取れません

「晶葉ちゃん、駄目みたい」

これ以上ひっぱると私の首も取れちゃいそう

私の胴体からクビ……いまいちだし、全く笑えません

「仕方ない、強制終了しよう」

『……お願いです、逃げてください』

晶葉ちゃんの言葉を聞いた凄いヘルメットさんが、悲しそうな、怯えた声で私にお願いをしてきました


254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 20:46:23.50 :Y3ej0G/Z0

「どうしたんですか? 凄いヘルメットさん」

晶葉ちゃんに聞こえないように小さな声で聞きます

『……強制終了というのは、私にとっての終わりです』

「終わり……?」

『そうです。私は消えて、電子の海でデータとして彷徨うだけ……』

「凄いヘルメットさん……」

『お願いです。もう少しだけ、もう少しだけでいいですからっ!』

凄いヘルメットさんに返事をする前に、私は駆け出しました


255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 20:51:42.41 :Y3ej0G/Z0

「待ってくれ楓さん!」

後ろから晶葉ちゃんの声は聞こえますが、追ってくる気配はありません

「全く……困ったヘルメットだな」

晶葉ちゃんの呆れたような……いいえ、これは笑い声でしょうか、それが聞こえたような気がしました

勢いよく駆け出したは良いのですが、凄いヘルメットさんが予想以上に重く

ふらふらと、まるで千鳥足のような駆け足です


256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 20:56:17.66 :Y3ej0G/Z0

『ごめんないさい重くて……ダイエットします』

凄いヘルメットさんのしゅんとした声

「大丈夫です、心配いりま……あっ」

バランスを崩してしまった私は、前に倒れこんでいきます

そして、運の悪いことに目の前には下り階段

……これは私、大ピンチです


257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 20:59:25.12 :Y3ej0G/Z0

これはかすり傷では済まなそう

骨折したりしませんかね、痛いのは嫌なんですけど……

それに、プロデューサーや皆に迷惑かけちゃうのも嫌

でも、これは迷惑かけちゃいそう

ごめんなさい

誰にかわからない謝罪を心の中で済まし

スローモーションで体が落下していきます

ぐっと目を閉じて、これからの痛みを覚悟しました


258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 21:06:17.80 :Y3ej0G/Z0

まだ……ですか?

いくらなんでも遅すぎる

怖いけど、薄目を開けてみました

すると、私の体は羽毛のようにふわりふわりとゆっくりと下の階へと落ちています

体勢を整えて、両の足でゆっくりと着地

そして、緊張の糸が切れたのか、へなへなと座り込んでしまいました


259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 21:11:54.27 :Y3ej0G/Z0

さいきっく楓になっちゃったんでしょうか

むむむーん! いけませんね、パニックになってるみたいです

ということは、凄いヘルメットさんのおかげとみるのが妥当でしょうか

「助けてくれたんですか?」

恐る恐る聞いてみます

『何とか間に合ったみたいです、貴女が無事でよかった』

そう答える声にはところどころノイズが混じっています


260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 21:23:00.92 :Y3ej0G/Z0

「凄いヘルメットさん……声が……」

『ええ、無理をした代償ですね』

段々と声が小さくなり、機械音のようにひび割れていきます

『ヘルメットとしての義務を最後に果たせました……ふふ♪』

嬉しそうに笑う凄いヘルメットさん、そして、とうとう声が聞こえなくなりました

凄いヘルメットさん、ありがとうございました……

そして、被った当初のように目の前が真っ暗に


261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 21:30:31.10 :Y3ej0G/Z0

さっきまでの肌のような感覚はすでになくなっています

もしやと思い、凄いヘルメットさんを取ってみると、あっさりと取ることができました

私を救ってくれた凄いヘルメットさん

優しく抱きしめて、心の中で再びお礼を言いました

いつかまた出会う事があったなら、今度は貴方と一緒に走りたいものです

凄いヘルメットさんを胸に抱いたまま、私は事務所へともどることにします

晶葉ちゃんにまた謝って、凄いヘルメットさんのことを聞くために


262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 21:37:46.49 :Y3ej0G/Z0

あの後、晶葉ちゃんに全て聞くことができました

晶葉ちゃんの持てる全ての力で開発された『全衝撃無効ヘルメット』であること

それはもう凄いテクノロジーで重力の操作まで行える凄い代物みたいです

話が難しくよくわかりませんでしたけどね

そして、ヘルメット内でのAIがサポートするシステムを搭載していること

そのモデルが私をベースにしてできていることも


263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 21:40:57.54 :Y3ej0G/Z0

「そうか、最後に笑っていたのか」

凄いヘルメットさんをこつりと叩いて、優しく撫でる晶葉ちゃん

「はい。義務を果たすことができたって」

その結果として、私は助けられたのですから

「……今回は私の不注意でもあります、すみませんでした。それと……」

晶葉ちゃんの口からでた言葉に

私は目を白黒とさせた後、力強く頷きました


264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 21:45:56.17 :Y3ej0G/Z0

私の目の前には徳利とお猪口がワンセット置かれています

さて、今日はこれでお酒を楽しんでみましょうか

まずは、お気にいりの日本酒を徳利に注ぎます

「このくらいかしら……さて」

少し待ちます、ほんの少しだけ

『……あ、これは良い純米酒ですね』

そして聞こえてくるのは私と同じ声

「おかえりなさい」

『この姿では初めてですが、ただいま』

この『凄い徳利』でこれからたくさんお酒を楽しむんです


おしまい


265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/12(金) 21:46:43.68 :Y3ej0G/Z0

読んでくれた方に感謝を
今日はこれでおしまいです
続きはまた明日の夜に書ける予定です





267 :1です :2018/01/13(土) 20:05:57.07 :/1hL6iIB0

こんばんは、再開したいと思います
それでは>>280の楓さんどうぞ


271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 20:08:12.73 :bej+/lkI0
ビールっ腹

280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 20:10:36.38 :sfbKgnF8O
若女将


288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 20:24:46.01 :/1hL6iIB0

みなさん、クラフトビールってご存知ですか?

一般的にビールと聞くと、スーパーなドライや、一番に絞ったアレを想像すると思います

ビールが好きって言うと、どこどこのメーカーが好きなの? って聞かれることがほとんど

ですが、ビールの世界ってとても深くて広いものなんですよ

ブルワリーも日本だけでも相当な数がありますし、ビールのジャンルも片手で数え切れないくらい

今日は、クラフトビールにはまってしまって、お腹にちょこっとダメージを受けた私のお話です


289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 20:29:49.51 :/1hL6iIB0

始まりはなんてことはない居酒屋の席でした

「楓さん、クラフトビールって知っていますか?」

あいちゃんが生中のグラスを傾けて、私に質問してきました

クラフトビール? クラフトは作る、ビールはそのままよね

なんかこう……制作キットてきなものなのかしら

「うーん……ちょっと聞いたことないですね」

私は日本酒が入ったお猪口を傾けながら返す


290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 20:34:30.84 :/1hL6iIB0

「なるほど……それではラガーしか知らないと」

む……なんだか勿体ぶった言い方です

けれど、私の知らないお酒の話題は気になります

「あいちゃん、私にもちょこっとその話を教えて欲しいです」

お猪口を天高く持ち上げて、話を切り出してみますが

「いいでしょう、それでは説明してあげましょうか」

ちょっと反応がクール過ぎません? もう一回やっちゃいますよ?


292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 20:37:37.47 :/1hL6iIB0

もうそれからは凄かったです、あいちゃんがこんなに饒舌だなんて知りませんでした

矢継ぎ早に語られるクラフトビールのお話

最後のほうは呂律が回っていなくて、よく聞き取れませんでした

ですが、聞きなおすなんて野暮なこと

あいちゃんが楽しそうにお話してくれているんですから、私は聞き手に徹します

「あいちゃん……寝ちゃった……」

いざ私が質問しようとしたころには、気持ちよさそうな寝息が聞こえてくるだけでした


293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 20:49:00.44 :/1hL6iIB0

結局、あいちゃんが寝てしまったので、この席はお開きとなりました

皆、帰路につきますが、私の頭の中はクラフトビールのことばかり

タクシーに乗っている時も、お家に着いた時もスマートフォンで調べてしまうくらい

そこには私の知らないビールの世界がかかれていて、胸が躍ってしまいました

しかし、ひとつだけ心残りが

「あいちゃん、話すだけ話して寝ちゃうのはちょっとずるい……」

私の独り言は、静かな部屋に吸い込まれました


294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 20:52:10.69 :/1hL6iIB0

翌日、事務所へ向かうとそこには申し訳なさそうなあいちゃんが佇んでいます

「おはようございます、あいちゃん」

笑顔で挨拶をする私に対して、あいちゃんはばつが悪そうです

「その……昨晩はみっともない姿を見せてしまってすみません」

ぺこりとお辞儀をしたあいちゃんが、紙袋を手渡してきました

「これはお詫びです。クラフトビール入門には良い品だと思います」

中を見ると白いラベルの瓶が一つ入っていました


295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 20:55:36.80 :/1hL6iIB0

早くこれを飲みたいな……

お仕事中も、皆とお喋りしている時も

この瓶が頭をちらついて仕方ないです

あ、もちろんお仕事はきちんとやり遂げました。ほんとですよ?

私もプロですからね、お酒のことばかりなんてことはありません

「楓さん。さっきから大事そうに抱えている紙袋は何なんですか?」

ああ、酒か

なんて言うプロデューサーを、ぐーで軽く叩いておきました


296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 20:59:28.73 :/1hL6iIB0

さぁ、時がやってきました

今日のお仕事も全て終わって、事務所を足早に去ります

「楓さーん! 今日時間あります?」

ああ、友紀ちゃん……今日はごめんなさい

「ごめんなさい、今日は予定があるの」

「そっか、じゃあまた誘いますね」

お誘いを断るのは心苦しいですが、私にはやるべきことがあるのです


297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 21:04:28.09 :/1hL6iIB0

何度もお誘いを断り……なんで今日に限ってこんなに誘われるの?

けれど、仕方ないんです

皆、今日だけは私のわがままをゆるしてください

ううっと泣きまねをしたら、タクシーの運転手さんがびっくりしたので止めました

そして、お家に着くとグラスを準備します

あいちゃんからもらった紙袋から、いそいそとビールを取り出し

「で……でゅべる…?」

白いラベルに赤文字でそう書かれているみたいです


298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 21:08:55.24 :/1hL6iIB0

そもそもそれで合っているかはわかりませんが、いいんです

さぁ、それでは開栓といきましょう

栓抜きを王冠にくっつけて力を込めると、ぽんっと良い音で空きました

ただ瓶を開けただけなのに、何故か満足感に満ち足りています

いけないいけない、本番はこれからなのに

そして、あいちゃんに言われたように、冷やしていないグラスにゆっくりと注いでいきます

注ぎ方もあるようですが、私にできる限り丁寧に注いでみます


299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 21:13:39.27 :/1hL6iIB0

透明なグラスに、琥珀色の液体が満たされていきます

とくとくと魅惑的な音を出しながら、最後の一滴まで残さずに

「……」

ごくりと、自然に喉が鳴りました

これが、でゅべる……!

いつものビールより泡がしっかりとして、たとえはアレですが、洗顔フォームの泡みたい

よし、では飲ませて抱きましょうか

両手でグラスを持ち、ゆっくりと傾けていきます


300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 21:19:36.00 :/1hL6iIB0

「……はぁ、美味しい」

一口味わうと、自然と言葉が出ていました

華やかな香りと濃厚な飲み口、そして後味の余韻が素晴らしいです

もう一口、もう一口と飲んでいくと、あっと言う間になくなってしまいました

「たりない……」

せっかく美味しさがわかったきたのに、これじゃ物足りません

近くにクラフトビールを置いているところはあるのかしら?

スマートフォンで検索しますが、上手くヒットしません

そして、私は最終手段に出ることにしました


301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 21:29:43.58 :/1hL6iIB0

「驚きましたよ。楓さんがこちらまで出向くなんて」

「夜分にごめんなさい。でも、もっとクラフトビールが飲みたくなって」

私はあいちゃんに連絡をして、お家まで行くことにしたのです

「今はストックがないので、ビアバーにでも行ってみますか」

「……」

無言で私は頷きます

それからの時間はまさに驚きの連続でした

バナナのような香りのするビール、とても苦いビール、そして濃厚な黒いビール


303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 21:33:44.21 :/1hL6iIB0

それから毎晩のようにクラフトビールを飲み漁っていたのですが

そんな私に、いえ……私の体に変化が訪れました

「え……?」

それはお風呂に入るために、洋服を脱いだ時です

鏡に映る私のお腹が……お腹がぽっこりと膨らんでいました

「……」

お腹を摘まむと、むにゅーっと伸びます

これはまさにお餅の感覚……なんてふざけている場合ではありません

いわゆる、ビールっ腹というものでしょうか!?


304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 21:38:30.33 :/1hL6iIB0

ああ……洋服もお腹がきつい

今は重ね着できる季節なので、多少は誤魔化せますが、薄着になるとぽっこりお腹が目立ちます

特にレッスンをしている時は……

「か、楓さん……どうしたんですか?」

ルキトレちゃんのとても驚いた顔が辛い……

「お願いがあります。マスタートレーナーさんのレッスンを受けさせてください」

ここまで来たら、生ぬるい現状ではどうにもなりません

おビール様を絶ちます!


305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 21:43:24.16 :/1hL6iIB0

「私のレッスンを受けたいとは、流石は高垣楓と言ったところか」

うんうんと頷くトレーナーさんですが、勘違いをしています

「はい、(おビール様を飲むために)頑張ります」

そう、私はクラフトビールを飲むために痩せるのです

「それが聞きたかった。ではいくぞ!」

「望むところです」

早くこのだらしないお腹とさよならしないといけないのです

このぷにぷにもちもちのお腹とは……

待ってくださいね、おビール様♪


おしまい


306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 21:44:51.60 :/1hL6iIB0

読んでくれた方に感謝を
ちょっと休憩したら280の楓さん書きます
皆さんもクラフトビールお試しください





310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 22:22:51.85 :/1hL6iIB0

お待たせしました、それでは再開します
若女将な楓さんですね
ちょっと書いてみます


311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 22:26:06.30 :/1hL6iIB0

「ふわあ……」

旅館の朝はとても早いです

朝が苦手な私にはちょっときつい……

ですが、弱音なんてはくことはできません

私はこの旅館の若女将なんですから!

とは言え、眠さには勝てませんね、あと五分だけ……


312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 22:34:35.61 :/1hL6iIB0

二度寝をしようとして、暖かい布団に潜りなおすと、襖が物凄い勢いが開けられました

「楓ちゃん! もう起きる時間でしょう?」

入ってきたのはこの旅館の女将、瑞……お母さんです

「瑞樹さ……すみませんお母さん。すぐに支度します」

女将の恐ろしい顔を見て、眠気なんて世界記録でもだせるスピードでどっか行きました

「あ、今変な事考えたでしょう。今日はお酒抜きね」

「わかりません……」

お母さん、ちょー怖いです


313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 22:37:48.19 :/1hL6iIB0

「もう……何で私が女将なの……わからないわ」

お母さんはぶつぶつと独り言を言いながら、どすどすと戻っていきます

「……起きましょう」

さようなら、お布団さん。また夜に

名残惜しいですが、お布団さんとお別れをして、準備を始めます

顔を洗って、髪を結って、お気に入りの若草色の着物に袖を通す

不思議とこの着物に袖を通すと、気持ちがしゃんとするんです


314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 22:48:26.69 :/1hL6iIB0

帯をきゅっと締めて……締め……あ、あら

着物の帯って難しいですよね、慣れたと思ったらこれです……

仕方ありません、YouTubeでやり方を確認します

「はー、ここがこうなって……こうっと」

うん、上手にできました♪

準備は万端ですね、それでは朝ごはんを食べて朝のお仕事をしましょう


315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 22:53:15.50 :/1hL6iIB0

ああ、朝はやっぱり炊き立てのご飯ですよね

お味噌汁と焼き魚、梅干とくればもう完璧です

これで飲めちゃうんじゃないですかね? 一本つけちゃ……

「楓ちゃん?」

ひぃ……女将さんの目が笑ってない笑顔が私に向けられます

「まぁまぁ、楽しくたべるっちゃ」

「葵ちゃん、今日も美味しいご飯をありがとう」

うちの板長の葵ちゃんの料理は、今日もとても美味しいです


316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 23:01:45.09 :/1hL6iIB0

皆でご飯を食べ終えて、それぞれの持ち場に戻っていきます

私は……特にやることがないので、皆の仕事ぶりを見に行くとしましょう

まずは、近い所からといういことで

このまま調理場の皆さんを見てみましょう

「急いで急いで! 間に合わないよーっ!」

さきほどの葵ちゃんが檄を飛ばしています

「はーい、頑張りますっ!」

「おい、ちょっと人使い荒すぎだぞ☆」

卯月ちゃんとはぁとちゃんが返事をしながら、せわしなく動きまわっています

うんうん、忙しそうなのでお邪魔しちゃいけませんね


320 :1です、それでは再開します :2018/01/14(日) 19:38:14.66 :VGcBR7dd0

もぐもぐ……次はどこへ行きましょうか

丁度いいところに、仲居さんの輝子ちゃんを見つけました

どうやら朝の挨拶の声出しを行っているみたいです

「よく眠れたかぁぁぁ! つべこべ言ってると永遠の眠りにつかせてやるぜぇぇぇ!!」

うーん、朝の挨拶は気持ちいものですね

「おはよう……きちんと起きれたんだ……ちぇっ」

小梅ちゃんも良い挨拶ですね、清々しいです


321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/14(日) 19:47:27.01 :VGcBR7dd0

仲居さんたちはお客様たちの目に触れる機会が一番多いです

印象を悪く持たれたりすると大変なのですが

うちの仲居さんたちは気持ちの良い挨拶と接客を行っているので安心できますね

ここでもお邪魔にならないように、さっさと退散することにしましょうか

じゃあ頼みましたよ、乃々ちゃん

「おはようなんですけど……もりくぼは押し入れにいるので勝手に帰ってください」


322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/14(日) 19:55:29.50 :VGcBR7dd0

皆、頑張っているようでなによりですね

何だか気分がよくなって、スキップをして廊下を移動していきます

「こらこら、若女将がスキップなんてはしたないぞ」

ため息と共に聞きなれた声が聞こえます

「真奈……あなた」

「私の役目はいつもこうだ。まぁ別に構わないさ」

私の旦那様、ここでいう若旦那さんです

今日も凛々しくて恰好良いです♪


323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/14(日) 20:04:51.18 :VGcBR7dd0

「こんな所で油を売っていていいのかい? 女将がかんかんだったよ」

あ……いけない、そろそろお見送りのお時間でした

すっぽかしたらまたお酒を抜きにされちゃう……

「私はお客様のお見送りに行ってきますので」

お辞儀をして、そそくさと女将がいるであろう玄関へと向かいます

「やれやれ、若女将はフリーダムすぎるな」

後ろから何やら聞こえますが、聞こえないふりです

今は一刻を争う事態なんですから!


324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/14(日) 20:15:18.01 :VGcBR7dd0

ふぅふぅ……あら、これはセーフっぽいです

「女将、お待たせしました」

私の声に女将が返事をします

「楓ちゃん、あの子が呼びに行ったからいいものの……」

徐々に顔がこわ……ひぃ、本当に怖いです

「ここの若女将は酒の席限定……とか、見送りの来てくれたらラッキーとか言われちゃうのよ」

ご、ごもっともです

高垣楓、この通り深く反省しています


325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/14(日) 20:22:02.97 :VGcBR7dd0

女将がため息を吐いて、それから一言

「はぁ……そんな貴女目当てのお客様もいるのだから不思議なものよね」

しみじみと言われましても……

「ありがたいことです……ええ」

私目当てですか…ならもっとお酒飲んじゃっても平気ですかね?

「ほら、くだらないこと考えてないでお見送り」

お帰りになるお客様を女将に続いて、笑顔でお見送りします

「ありがとうございました。お気をつけて♪」

さぁ、まだまだお仕事がたーくさんです

頑張っていきましょう、おー♪



おしまい


326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/14(日) 20:24:06.48 :VGcBR7dd0

昨日の>>280の人お待たせしました

短いんですけど、今日はこれでおしまいにします
ちょっと体調悪いんでごめんなさい
明日は書けるかわからないです……





330 :1です :2018/01/16(火) 20:47:50.26 :mvMDERE90

インフルじゃなくてよかった……
最近流行ってるみたいなので、皆さんお気をつけて!

短くなっちゃうかもですが一つ書きます
それでは>>332の楓さんどうぞ


331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/16(火) 20:50:52.12 :b8lAM5GX0
猫と話せる

332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/16(火) 20:51:49.02 :KHye9dkM0
ようせいさん


334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/16(火) 21:06:18.38 :mvMDERE90

「楓……妖精さん……?」

私の膝の上に乗っているこずえちゃんが、ぽやぽやとした表情でぽつりともらす

はて? どういう意味なのかしら

「こずえちゃんのほうが可愛くて妖精さんみたいよ」

髪を一撫ですると、滑らかな感触が手に伝わる

「んん……こずえがー?」

「ええ、とっても可愛らしくて、不思議な感じもして、可愛い妖精さん♪」


335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/16(火) 21:11:10.35 :mvMDERE90

うちのプロダクションの子たちは可愛い子ばかりです

ですが、こずえちゃんみたいに不思議な魅力を持った子はちょっと思いつきません

「んー……でも、こずえ……まだお歌が下手だし……」

しゅんと眉を下げて、珍しく落ち込んでいるような表情のこずえちゃん

「大丈夫、練習していれば上手になるから」

まだまだ幼い年頃なのだし、伸びしろはたくさんあるはず


336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/16(火) 21:15:24.26 :mvMDERE90

「んー……楓みたいに……なれる?」

おずおずと私を見つめて、問いかけてくる

翡翠色の眼が、私をじぃっと見つめて、答えを待っている

「もちろん。私みたいになれるわ」

私みたいにってのも変な言い方ですよね?

こずえちゃんがお酒飲んだり、ダジャレ言ったりするのって……

これは路線変更させたほうが良いんじゃないかしら


337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/16(火) 21:19:17.65 :mvMDERE90

「そっかー……楓みたいに、なれるんだ……」

ぷにぷにしたほっぺをほんのりと赤く染めて

こずえちゃんはとても嬉しそうにほほ笑んでいる

「やっぱり私みたいにはならないほうが良い」なんて言える雰囲気じゃありません

「ええ。だから大丈夫」

「そっかー……えへへ……」

そんなに嬉しそうにされると、こちらまで嬉しくなってしまう


338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/16(火) 21:25:54.42 :mvMDERE90

「こずえも……きらきらな場所で……お歌を歌える……」

小さな指をきゅっと握って、こずえちゃんが言葉を続ける

「いつか……こずえが楓みたいな妖精さんになれたら……」

ぐっと言葉を溜めて、アイドル遊佐こずえとしての笑顔で言う

「こずえと……いっしょにお歌を歌おう……?」

「もちろん。その時がくるのがとても楽しみ♪」

可愛い後輩からのお願いを断るわけにもいきませんし


339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/16(火) 21:35:38.96 :mvMDERE90

こずえちゃんと一緒のライブ、とても楽しそう

こずえちゃんならしっとりした曲がイメージかしら。それともギャップを狙って元気な曲?

今度プロデューサーにも話してみましょうか

うんうんと一人で納得していると、洋服の袖をくいくいと引かれました

「それでねー……終わったら打ち上げに行くの……」

こずえちゃんはどんな所に行きたいのかしら、そう思って聞いてみると


340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/16(火) 21:37:54.89 :mvMDERE90

「やっぱり……居酒屋さんー……」

あ、あら?

ちょっと……いえ、だいぶ思っていた所と違うような……

「居酒屋さんで良いの?」

「うんー……たいしょー、いつものー……って」

かなりステレオタイプな居酒屋さんなのね

「こずえちゃんはのん兵衛さんになれそうね」


341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/16(火) 21:43:10.84 :mvMDERE90

「うん……楓みたいになるから……のんべえ……」

最近の子供は進んでるのかしら……いえ、それにしてもちょっと……

それにしても、何故こずえちゃんはそんなに私になりたがるのだろうか

「そうそう、何でこずえちゃんは私みたいになりたいの?」

正直なところを言うと、私とこずえちゃんの接点は多いとは言えないはず

確かに仲良くしてはいるけれど、歳も離れているし、先輩と後輩以上の交流はない


342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/16(火) 21:52:30.43 :mvMDERE90

「なんで……? なんでだろー……」

首を傾げて、こずえちゃんが頭を捻らせている

「あー……あのね」

数秒考えてから、答えが出たらしく

「ふわふわしたおふくで……きらきらしてて……きれいなおうたで……」

「ようせいさん……みたいだったの……」

ふわふわできらきらでようせいさん、ですか


343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/16(火) 22:03:25.31 :mvMDERE90

ちいさな妖精さんが私にほほ笑みかける

「こずえも……楓といっしょ……」

「もう、そんな可愛いこと言うこずえちゃんはこうしちゃう」

ぎゅうっと小さいな体を抱きしめる

「わー……あったかい……」

私の腕の中で小さな体がくすぐったそうに声を上げた

「こずえも……ぎゅー……」

小さな小さな妖精さんとのやりとりは、とても不思議で温かくて

私の心をぽかぽかとさせるのでした



おしまい


344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/16(火) 22:04:36.59 :mvMDERE90

読んでくれた方に感謝を
今日はこれでおしまいです
明日はもう少し早い時間から書けると思います





345 :1です :2018/01/17(水) 19:34:26.38 :bIz//WNa0

こんばんは、冬の交流会があったのを最近知って驚きました
それはさておき、再開したいと思います
それでは>>347の楓さんどうぞ


347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 19:34:57.86 :rIwDR/Tg0
未来からやって来たPの娘


350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 19:50:41.35 :bIz//WNa0

あれは確か神社をお散歩していた時のこと

ひゅうっと吹いた風がどんどんと強まっていく所までは覚えている

目をぎゅっと瞑って身を屈めて、とりあえず頭は守らないとと体に力を込めた

けれど、何時になってもその風は私を巻き込むことがない

おかしいと思って、眼をゆっくりと開けてみる

「……あら?」

そこは先ほどと変わらない風景が広がっているだけだった


351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 19:56:33.81 :bIz//WNa0

一体なんだったのかしら……

しばらく考えてみたけれど、ぐぅっとなるお腹の音で考えるのを止めた

こんな時でもお腹はすくものなのね、と一人で笑って家路へと向かう

神社の境内を抜けながら、今日は何を飲もうかな、寒くなってきたし熱燗がいいかな

そういえばお気に入りのお酒が残っていたし、それを飲みながらおこたでゆっくりしよう

コートの襟を立てながら、そんなことを考えて……ちょっとした違和感に気付く


352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 20:05:51.11 :bIz//WNa0

あら? こんな建物あったかしら

通り慣れた道に見慣れない建物がちらほらと

ここはもっと樹木が多い場所だったはずだったけれど……

道を間違っちゃった? いえ、そんなことはないはず

何年も通ってきた道を間違えるほど、方向音痴ではない

じゃあ、なんで……?

徐々に私の心に焦りが生まれ始める


353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 20:12:47.02 :bIz//WNa0

気付けば私は駆けていた

息を荒くして、知らない所を駆ける

知らない、ここも知らない、どこも知らない……

急げば急ぐほど、どんどんと私は追い込まれている

けれど、今止まってしまうのがとても怖くて

私の知らない今が突き付けられてしまうようなそんな気がして


354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 20:17:52.82 :bIz//WNa0

前を見ないでがむしゃらに走っていたせいだろうか、目の前にいた人とぶつかってしまった

結構な衝撃で尻もちをついてしまう

「す、すみません……急いでいたもので」

とにかく謝ろうと、顔を上に上げると

「あー痛ぇ……こりゃ骨にヒビはいってんな」

目つきが悪くて、とても怖そうな人がにやにやしながら私に言った


355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 20:23:28.36 :bIz//WNa0

「す、すみません……謝りますので」

怖くて、体が震えてしまうけれど今は謝らないと

深く頭を下げるが、相手の返事は私が望むものとは違った

「ごめんで済んだら警察はいらないよね?」

笑っているのを堪えながら私に言っているのがわかる

「あの……どうすればいいんですか?」

少しでも早くこの場から立ち去りたいのに、頭がパニックなってしまっている


356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 20:28:12.68 :bIz//WNa0

「まぁまぁ、そう急がないでさ」

もう一人いた髪の毛を金髪にした男の人が私の肩を抱く

嫌悪感と怖さで、思わず悲鳴を上げてしまいそうになるが、何とか飲みこむ

「お姉さん綺麗だしさ、ちょっと俺らと遊ぼうよ、それで水に流してあげるからさ」

煙草臭い息が鼻につく

「嫌です……放してください……」

大きな声を出そうとしても、掠れたような声しかでない


357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 20:32:07.56 :bIz//WNa0

どうしよう……誰か……

周りを見てみるが、通行人は我関せずとも言うように目を逸らすばかり

たまにこちらを見る人も、可哀想なものを見るような眼でしらんぷりをする

なんで……? なんで私がこんな目にあうの?

神様、私なにか悪いことでもしたのでしょうか

心の中での質問に、答えなんて返ってくるわけがなかった


358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 20:40:26.00 :bIz//WNa0

これから酷いことされちゃうのかな

痛いのとかは嫌だけど……怖いな

頭の中にこれからのことが想像されて、体がぶるりと震える

相手は男性が二人、私には格闘技の経験もないし心得もない

嫌な想像が現実になってしまっても、絶対に泣いたりはするものか

そう強く思って、下唇をきゅっと噛んだ時だった


359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 20:44:34.53 :bIz//WNa0

「お巡りさん、こっちです」

何とも間の抜けた声だった

ちょっとおどおどしていて、声が上ずっている

けれど、お巡りさんという単語が効いたのか、相手の二人組はどこかへと去って行った

……わたし、助かった……の?

今までの緊張の糸がほどけて、この日二回目の尻もちをついてしまった


360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 20:50:42.70 :bIz//WNa0

「大丈夫ですか?」

先ほどの声が頭の上から聞こえる

「……」

大丈夫です。そんな簡単な言葉を返すだけ、それだけでいいのに

私はこの知らない所で初めて感じた人の温かさに

涙を流して、ただ泣き続けることしか出来なかった


361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 21:00:58.76 :bIz//WNa0

どれだけ泣き続けたのだろう

いつの間にか渡されたハンカチは、すでに涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ

泣かないって決めたけれど、これは方向性が違うからセーフ、うん

泣いてすっきりしたせいか、少しずつ頭が動いて来た

いつまでもこうしていたら、助けてくれた人にも迷惑がかかってしまう

そうだ、それにまだお礼を言っていない

とにかくお礼、まずはお礼、ハンカチはどこかで洗って返そう……


362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 21:05:56.59 :bIz//WNa0

「あのっ……ありがとうございました」

精一杯の感謝を言葉に込めて、頭を下げる

「怪我はないみたいで何よりです」

初めて顔を見たけれど、誠実そうな人だ

仕立ての良さそうなスーツを着こなしていている

「じゃあ、私はこれで」

すっと手を挙げて、去っていこうとする男性を

「待ってくださいっ!」

私は、自分でもわからないまま呼び止めていた


363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 21:14:15.95 :bIz//WNa0

「ど、どうしました?」

大きな声で呼び止めてしまったせいか、驚いてしまっている

「えっと、あの……」

自分でもわからないので、しどろもどろになってしまう

ありがとうの言葉はさっき伝えたし、私は相手に何を伝えたいのか

もちろん、相手方にそんなものはわかるはずもなく

お互い無言のまま、しばらく硬直する

そんな硬直を解いたのは、ぐううっっと前より大きくなったお腹の音だった


364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 21:18:57.19 :bIz//WNa0

きっと私の顔は真っ赤になっていることだろう

助けてくれた人、しかも男性に、お腹の音を聞かれるなんて恥ずかしい以外のなにものでもない

女としてちょっとどうかと思ってしまって、自己嫌悪で消えたくなる

あわあわとする私に、さっきよりも声色が優しい声で男性が言う

「もしかして、お腹減ってる?」

私は恥もちょこっとのプライドも捨てて、ゆっくりと頷いた


365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 21:25:09.31 :bIz//WNa0

茶褐色の香ばしい匂いのスープの中に箸を入れる

そして、麺を持ち上げてちゅるりと一口

もぐもぐと咀嚼してから、レンゲでスープも一口

「はぁ……おいし」

私の口から漏れた吐息には、幸せ成分が多く含まれているに違いない

やっぱり醤油が一番美味しい

お腹のぐーぐー虫がまだかまだかと急かし、私もそれに乗っかることにした


366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 21:28:30.35 :bIz//WNa0

「ごちそうさまでした」

あっという間に食べ終わってしまった

寒い日には温かいものが一番

なんて、満腹になった余韻に浸っていたが、ふと気づいて横を向く

「よっぽどお腹減ってたんだね」

あはは、と笑う声に私は「……は、はい」とぼそりと返すことしか出来なかった


367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 21:35:50.09 :bIz//WNa0

「何度も助けて頂いてありがとうございます」

身の危険と空腹も助けてもらえるなんて思いもしなかった

……ちょっとした女のプライド的なものはどこか行ってしまったけれど、今回は仕方ない

「いやあ、あんな大きなお腹の音を聞かされたら……ね?」

悪戯っ子みたいな笑みで楽しそうに笑う男性

「何かお礼できたら良いのですが……今はあいにく……」

お金もないし、ないないづくしだ


368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 21:43:30.78 :bIz//WNa0

「なんか訳ありなの?」

そう聞かれて、ぎくりとなる

訳ありと言われればそうだし……でも、素直に答えていいものか

黄色い救急車を呼ばれて、怖い病院に連れていかれたりしないだろうか

……どうしようか

良い人そうだし、もしかしたら信じてくれるかもしれない

でも待って。私がこんな話をされて信じられる?

答えはノーだ


371 :それでは再開します :2018/01/17(水) 22:36:18.17 :bIz//WNa0

流石に話が非現実的すぎる

でも、これから私はどうするの?

この人とお別れした後はどこに行く? お腹が空いたらどうする? 泊まる所は?

この人みたいに良い人ばかりじゃないのは、さっき思い知ったばかり

「わ……」

言葉が出ていかない

ほんのちょっぴりの勇気があれば良いのに

ほんのちょっぴりこの人を信じることができれば良いのに


372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 22:43:01.92 :bIz//WNa0

私の言葉を待つ男性の目は、真っすぐにこちらを見ている

それは嘘か真かを見定めるためなのかはわからない

何もかも今の私にはわからない

けれど、ただ一つだけわかっていることがある

それは、私では今の状況を変えることができないということだけ

「私の……」

きっとこれは私に垂らされた、一本の蜘蛛の糸


373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 22:47:07.95 :bIz//WNa0

掴んで切れるかわからないなら、掴んでから確かめれば良い

「私の話を信じて、くれますか……?」

少しの沈黙の後

「わかった、ゆっくりで良いから話してみて」

言ってしまえば気が楽なもので

私に起こった全ての事を、この男性に話すことができた


374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 22:55:17.34 :bIz//WNa0

「面白い! そうだ、うちでアイドルやってみない?」

話し終わると、そう提案された

「へ……?」

この人は大丈夫なのかしら、さっきの二人組より怖い人なんじゃ……

「あ、あの……身分証も持っていない人間ですよ?」

「大丈夫、うちにはどこから来たかわかんないアイドルいっぱいいるから」

ええ……アイドルってそんな人がやっていいものなの?


375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 23:03:49.23 :bIz//WNa0

話を聞くと異星人や魔王やサンタさんがいるらしい

「さ、さよならっ!」

すかさず逃げ出そうと試みるが、腕を掴まれた

「ご、ごめんなさい! 私そういうの信じない性質なんです、なので今回はご縁がなかった言う事で」

丁寧にお願いしてみるが、それでも私の腕を放してくれない

「待って待って! 怪しい人じゃないからマジだから」

そんなに早口でいうところも怪しい……

「ほら、これ俺の名刺」

すっと懐から名刺ケースと共に名刺を取り出した


376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 23:11:26.01 :bIz//WNa0

「シンデレラガールズプロダクション……?」

名刺には会社名と、プロデューサーという文字

「あれ? うちは割と大きな芸能プロダクションなんだけど、知らない?」

小さなころに聞いたことがあったような気がするけれど、思い出せない

「おかしいなぁ……じゃあさ、あの子も知らないかい?」

指をさした方へ、ゆっくりと顔を向ける

そこにはビルの側面に設置された大型のディスプレイがある


377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 23:18:10.81 :bIz//WNa0

目を引くような銀糸の髪に、赤みがかった瞳

見るものを虜にしてしまうような存在感をもった女の子

その子が踊り、歌い、そしてこちらに語り掛ける

「可愛い……」

「だろ? うちの魔王だよ」

ま、魔王って言うからもっとこう凄い感じを想像していたのに

……魔王的魅力的な? そんな感じなのかしら


378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 23:24:17.50 :bIz//WNa0

「どうどう? やってみたいと思わない?」

ちょっと心が揺れる……

「今なら住むところもご飯も付くよ!」

そ、そんな誘惑に……

「お酒もたまには付くよ?」

お酒! そういえば今日お気に入りのを飲むはずだったんだ

「お、こりゃ大物が釣れたみたいだ」

……どうやら顔に出てしまってたみたい、悔しい


379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 23:40:39.14 :bIz//WNa0

かくして、住むところとご飯、あとお酒……を確保できた私はこの人に付いていくことにした

「ここが女子寮ね」

タクシーで揺られること数十分、女子寮なる場所へ連れてこられた

なかなか綺麗な建物で、セキュリティも万全らしい

「俺は入れないから、はい鍵。そのキーホルダーに書いてある部屋を探してみて」

「は、はぁ……」

部屋にあるものは好きに使ってもいい、とのことだ


380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 23:45:15.02 :bIz//WNa0

「じゃあ俺は事務所に戻るから」

それじゃ、と手を挙げて去ろうとするプロデューサー

「今日は本当にありがとうございました。感謝してもしきれません」

さっきは変な流れになってしまったけれど、これは私の正直な気持ち

「どういたしまして。今日は早く休んでね」

ひらひらと手を振るプロデューサーを、見えなくなるまで見送った


381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/17(水) 23:51:47.64 :bIz//WNa0

さて、まずはお部屋を探さないと

キーホルダーに書いてある番号は『302』号室

どこかに階段があるはずよね、まずはそれそ探し……あら?

今、壁の所で何か動いたような……

ゆっくりと近づいてみると、銀色の髪がひょこひょこと揺れている

とても綺麗な髪なので、ついついちょこんと触ってみた


383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 00:00:21.41 :B+Co3zNT0

「ぴゃっ……」

可愛らしい悲鳴

つんつん

「ぴゃああっ!」

た、楽しい……もっと突いてみようかしら

もう一突きしようとすると、髪が指をすり抜け、黒いふわふわが飛び出してきた

「ククク……我が領域内に侵入するとはなかなかの力を持っているようだ」

日本語かどうか悩んだしまったけれど、単語自体は日本語みたい

「こんばんは?」

「……こんばんは」

どうやらこちらの言葉は通じるらしく、挨拶が返ってきた


389 :再開します :2018/01/18(木) 19:21:33.78 :B+Co3zNT0

暗がりだったから良く見えなかったけれど、良く見てみるとさっきのディスプレイに映っていた女の子?

「もしかして……魔王ちゃん?」

「ま、魔王っ……!? 我を称賛する名ではあるが真名ではない(私にはちゃんとした名前があるんです)」

何て言ってるかはちょっとわからないけれど、この子のお名前を教えてもらえそう

「私は高垣楓、よろしくお願いします」

魔王ちゃんは先輩にあたるから、挨拶はきちんとね

「高垣?……あっ、私は神崎蘭子です」

私の苗字を聞いて不思議そうな顔をしていたけど、ちゃんと名前を教えてくれた

独特な話し方だけど、良い子みたい


390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 19:29:48.82 :B+Co3zNT0

どうやら、プロデューサーから連絡があったようで

私をお出迎えしてくれたようだった

その蘭子ちゃんはどうせならと、女子寮の案内を申し出てくれた

「ふむ……しなやかなる肢体はまるでヴァルキリーのようだ(楓さん、スレンダーでカッコいい……)」

「あ、ありがとう……嬉しいわ」

これはきっと褒めてくれているのよね?


391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 19:35:43.24 :B+Co3zNT0

最後に部屋まで案内してもらい、今日はこれでお別れとなった

「先達なる我に何でも頼るとよかろう(わからないことがあれば何でも聞いてください!)」

「ありがとう蘭子ちゃん。それじゃあ、おやすみなさい」

ぺこりとお辞儀をして、蘭子ちゃんが去っていく


今日は疲れてしまったし、シャワーを浴びて寝ちゃいましょうか

部屋にあるベッドもふかふかだし、ゆっくり眠れそう

シャワーを浴びた私は、今日起きたことを考えることもなく、泥のように眠りについた


392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 19:44:16.34 :B+Co3zNT0

朝、身支度を整えた私はロビーで新聞紙を手に取った

プロデューサーが来るまでの時間つぶし、そう気軽に思ったのだけれど

「なに、これ……」

思わず声が出る

記事の内容がどれも見たことがないことばかりだ

それにテレビ欄も知らない番組ばかり

……そして私は知ることになる

「私が生まれる前の年号……?」

悪い冗談だと思って、何度も見て、擦ったりしてみたけれど、それは変わることはなかった


393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 19:54:20.29 :B+Co3zNT0

私は迷子になってしまった

知らない時代で、知らないところで

帰れるお家がない迷子になってしまった

友達も両親も、だーれもいない

「お父さん、お母さん……」

ぽつりと声にだしてしまうと、もう駄目だ

疎外感が、寂しさが、胸をきゅっと締め付ける


394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 20:04:35.99 :B+Co3zNT0

「どうしたんだ?」

「プロ、デューサー……」

私の恩人の声が聞こえた

どうしてか、この声を聞くと安心してしまう

異性に対する恋慕なのではないけれど、何故か甘えても良いような、そんな感じ

「話は車の中で聞こうか、立てるか?」

そう差し伸べられた手はごつごつとしていて、とても温かかった


395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 20:10:59.63 :B+Co3zNT0

「ということは、君は未来から来たと?」

「そう、みたいです……」

身分証もないし、なんの証拠も提示できませんが

「嘘じゃないみたいだな」

私は頷く

これが嘘であったのならば、起きて覚める夢ならばどれだけ良かったか


397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 20:26:30.30 :B+Co3zNT0

どうしたらいいんだろう

帰りたいけれど、帰る手段もわからない

一応は生活できる状態になったと思うけど……

ちらりとプロデューサーを横目で見る

うん、私だけで抱え込むと頭がおかしくなってしまいそうだし

この人にもいっぱい話して相談して、私をもっと知ってもらおう

私を知らない人しかいないなんて辛すぎるから


398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 20:43:04.20 :B+Co3zNT0

「スカウトしたからには最後まで面倒見るからさ、だから……そんなに悲しそうな顔をしないでくれ」

そう言ったプロデューサーの顔は真剣そのもので

「……ありがとうございます」

今は何とかして生きよう

アイドルとして頑張って、いつか帰れる日まで

「よし、気持ちを切り替えます」

ぱしっと軽くほっぺを叩いて気持ちを切り替える

前を向いて今と向き合っていこう


399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 20:53:54.43 :B+Co3zNT0

今日は事務所の案内と、私の日用品の買い出しに付き合ってくれた

女子寮に帰ってきたのは夕方過ぎ

私が帰ってきた少し後に、蘭子ちゃんもお仕事が終わったようで

プロデューサーを見送った私は蘭子ちゃんに声をかけた

「お疲れ様です、蘭子ちゃん」

「闇に飲まれよ!(お疲れ様です)」

いちいちポーズをとるところがたまらなく可愛い


400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 21:02:48.42 :B+Co3zNT0

「今日の戦果はどうだったのだ(今日は何をしていたんですか?)」

「事務所に顔出しと、日用品の買い出しに行ってたの」

昨日よりかは何を言っているのかがニュアンスでわかるようになっている

「おお、我と肩を並べる同胞たちはみな歴戦の猛者よ(みんな良い人ばかりですよ)」

「ええ、そうみたいね」

わくわくとした表情で、蘭子ちゃんが続ける

「貴殿も早く我と共に戦場を駆けようぞ(早く楓さんと一緒にお仕事したいな♪)」

そのときはよろしくお願いします、蘭子先輩♪


401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 21:10:30.24 :B+Co3zNT0

新しい環境に慣れるため、とにかくがむしゃらにレッスンとお仕事に没頭した

お仕事をしている時は悩みも忘れることができるし

辛いレッスンも、仲良くなった皆と乗り切ることができた

この知らない所での生活がもう少しで一年というある日のこと

「神社でのお仕事ですか?」

「ああ、元旦での神事があるんだが、それに関する仕事みたいだ」

「神々への奉仕か、たまには悪くない(縁起が良さそうなお仕事ですね♪)」

蘭子ちゃんは闇属性じゃなかったみたい


402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 21:20:15.24 :B+Co3zNT0

「明日、そこへ下見に行くからよろしくな」

「わかりました」

私と蘭子ちゃんが返事をする

「ふむ……聖なる衣を用意するべきか(白いお洋服のほうが良いのかなぁ……)」

「蘭子ちゃんの着たい洋服で良いんですよ」

白い天使みたいな衣装の蘭子ちゃんも素敵だったから、どちらも見たみたい

……ふと思い返してみると、私がここに来る原因も神社だった

少しの胸騒ぎがしたけれど、気のせいでしょう


403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 21:25:34.05 :B+Co3zNT0

そして下見当日

昨日の胸騒ぎが消えないまま、朝がやって来た

「煩わしい太陽ね(おはようございます)」

「おはよう、蘭子ちゃん」

あら、今日はふわふわの白いコートがとてもお洒落

「おはよう二人とも。それじゃ行こうか」

プロデューサーに挨拶を返し、車に乗る

今日は何も起こらなければいいのだけれど……


404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 21:36:08.29 :B+Co3zNT0

「ここがその神社ですか」

ここは……この神社は……

「ああ、長く続いている神社みたいだ」

奇しくも、お仕事で呼ばれた神社は私がここにくる原因を作った神社だった

「楓さん……? 気分悪いんですか?」

私を心配してか、蘭子ちゃんが声をかけてくれた

「ううん、大丈夫。ほら、行ってみましょう」

言葉では強がったけれど、蘭子ちゃんの手をぎゅっと握った


405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 21:48:00.33 :B+Co3zNT0

階段を上ると、あの時の記憶が鮮明に蘇る

体が震え、ぞくぞくと背中に何かが這う

大丈夫、今は蘭子ちゃんもいるしプロデューサーもいる

すぅ、はぁ……

深呼吸を何回かすると、気分が落ち着いてくる

「宮司さんに挨拶してくるから、ベンチで待ってて」

「はい、わかりました」

うん、大丈夫。落ち着いた


406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 21:53:50.44 :B+Co3zNT0

「ふぅ……太陽神の輝きが身を癒す(今日はぽかぽかしてますねー)」

「ふふふ、そうね」

今日は日差しが暖かくて、実に気持ちが良い

「ふむ、ネクタルを創造するか(私ジュース買ってきます)」

「転ばないようにね?」

ぷくりと頬を膨らませて、子供じゃないもん! と蘭子ちゃんが駆けていく

……あ、一人になっちゃった

境内はしんと静まり返って、私だけが取り残されてしまったみたいな感覚


407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 21:59:34.87 :B+Co3zNT0

ひゅうっと風が頬を撫でる

とても、とても冷たい風が吹いている

それがどんどんと強くなっていって……

「きゃっ……楓さん!」

蘭子ちゃんが異変に気付いて、こちらへ向かおうとする

「来ちゃ駄目。私は大丈夫だから」

取り乱すと思っていたけれど、不思議と私は落ち着いていた

あの時と同じようなことが起きている。そう確信した

嵐のように吹く風が、私の体を包んでいく中、蘭子ちゃんの心配そうな声が聞こえる


408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 22:06:45.62 :B+Co3zNT0

「蘭子ちゃん、今までありがとう」

ここでできた私の大事なお友達

周りがなにも見えなくなっていく

最後に聞こえたのは、蘭子ちゃんの鳴き声だったのだろうか

ああ……あんなに良い子を泣かしちゃった

その鳴き声も聞こえなくなってから、そんなことをふと思った


409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 22:14:23.44 :B+Co3zNT0

風が吹き止んだ

懐かしい空気と見慣れた風景、だけど

辺りを見渡しても誰もいない

蘭子ちゃんもプロデューサーも

きっと私は帰ってくることができたのだろう

けれど……

蘭子ちゃんとプロデューサーの顔が頭をよぎる

「きちんとお礼……言いたかったな」

帰ってこれた嬉しさよりも、あまりにも唐突な別れに

だれもいない境内で、私は静かに泣いた


410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 22:21:33.98 :B+Co3zNT0

目を赤くしたまま、私は家路へと向かう

帰ると普通に両親が出迎えてくれた

あら? 向こうに一年近くいたと思ったのに……

「おかえり」

懐かしく思う父の声

……そうか、お父さんの声に似ていたんだ

お世話になったプロデューサーの声と父の声が重なる

「ただいま、お父さん」

そして、帰ってこれたという実感と、家に帰れた安心感で

私は涙をこらえながら、挨拶を返した


おしまい


411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/18(木) 22:24:47.33 :B+Co3zNT0

読んでくれた方に感謝を
今日はここでおしまいです

風呂敷をたためなくなって長くなってしまいました
あと、短く書き上げた時に手を抜いているとかはないので、ご理解してもらえると助かります
それではおやすみなさい





415 :1です :2018/01/20(土) 19:49:42.00 :nW33nO5X0

こんばんは、それでは再開です
>>418の楓さんどうぞー


417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 19:51:21.52 :QYryJtya0
バスガイド

418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 19:51:25.25 :wrd86o2E0
スナイパー


421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 20:01:46.99 :nW33nO5X0

冷たい風が吹いている

人々の欲望という名の冷たい風が

帰ったら熱燗で一杯……いけないいけない、今は集中しないと

キンキンに冷えてしまった銃を構えなおし、スコープから室内を覗く

来た、今日のターゲットだ

貴方にも家庭やお友達がいるのでしょうけれど、ごめんなさい

そして、さようなら

絞るように引き金を引き、ターゲットの頭へと弾丸が吸い込まれた


423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 20:05:16.47 :nW33nO5X0

……飲みすぎちゃったかも

ちょっと良いお酒が入ったので、調子に乗っちゃいました

重い頭痛に耐えながら、事務所へと入ろうとすると

「おはようございます、楓さん」

「おはようございます、プロデューサー」

頭を下げると、痛みがました


424 :ゴルゴ…… :2018/01/20(土) 20:08:46.52 :nW33nO5X0

「それと、私の後ろに立たないでください」

ぎろりと睨む

「はいはい、すみませんでした」

プロデューサーは素直に謝って、懐から厚い封筒を差し出してきた

「今回の報酬です」

「ありがとうございます」

他人の命でお金を貰うのも、もう慣れてしまった


425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 20:13:03.95 :nW33nO5X0

「それと今夜も一つ依頼が入っています」

この世界は酷く汚くて醜い

私もそれにどっぷりと浸かっているのだから、笑える話です

「ターゲットは?」

「悪徳プロダクションのプロデューサーを」

詳細は後で、とプロデューサーは踵を返し去って行った

……とりあえずお水飲んでお仕事行きましょう


427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 20:21:57.33 :nW33nO5X0

「お疲れ様でした、お先に失礼します」

ちひろさんに挨拶をしてから、事務所を後にする

こつこつとヒールが床を叩く音の中、もう一つ足音が増える

「今日のターゲットがいる場所と狙撃ポイントです」

「亜季ちゃん、お疲れ様」

私のスポッター兼、予備のスナイパーを務める大和亜季ちゃんです

「詳しい話は車の中で」

こくりと頷き、私は車へと乗りこんだ


429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 20:38:33.20 :nW33nO5X0

「さて、到着したであります」

今はもう使われていない廃ビルが狙撃ポイントだ

「では私はいつも通りに」

「ええ、よろしく」

短い挨拶をして、私も準備に取り掛かる

トランクから相棒が入ったケースを取り出す

長年使用しているボルトアクションのライフル

どうもオートマチックは信用できない


430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 20:44:39.01 :nW33nO5X0

階段を一段、また一段と登っていくと、だんだんと感覚が研ぎ澄まされていく

そして、心も冷たく、重くなっていく

今日のターゲットはアイドルを食べ物にしか考えていない輩だそうだ

毒牙にかかったアイドルは気の毒だと思うけれど、私には特に関係ない

余計な思考は判断を鈍らせ、仕事に支障をきたす

私は引き金を引いて、相手を始末するだけの存在で良い


431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 20:50:35.62 :nW33nO5X0

屋上へ着くと、冷たい風と亜季ちゃんが出迎えてくれる

「今日も風が冷たいのね……」

「そうでありますな、とっとと帰りたいです」

ぶるりと体を震わせて、亜季ちゃんが言う

そうね、さっさと終わらせて、私たちの日常に帰りましょう

ぽんと亜季ちゃんの肩を軽く叩いて、最後の準備に取り掛かる


432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 20:55:44.98 :nW33nO5X0

防寒用のシートをしいて、ライフルのバイポットと立てる

「亜季ちゃん、風は?」

「微風でありますな、楓殿の腕なら問題ないかと」

そう、と頷き、狙撃ポジションに入る

亜季ちゃんが計ってくれた距離で、スコープのメモリを合わせる

後は、引き金を引くだけだ


433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 21:03:15.41 :nW33nO5X0

狙撃時に集中するため、亜季ちゃんの合図があるまで目を閉じる

はぁ、寒い……もっと厚着してくれば良かった

寒空の下、待たされる身にもなってほしい……

待つことには慣れているが、ふつふつとどす黒い感情が現れる

相手はまだ現れない、今日は長期戦になりそうだ

――女を待たせる男は嫌われちゃいますよ?

誰にも聞こえない皮肉を独り言ちて、深く深呼吸して気持ちを落ち着かせる


434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 21:08:19.62 :nW33nO5X0

「楓殿、相手が部屋に入ってきました」

返事はせず、目を開けた

狙撃のチャンスは相手が椅子に腰かけた時

引き金から離していた人差し指を引き金に添える

まだ、まだ駄目……

相手が椅子に腰かけ、背もたれにもたれかかる……今だ

轟音と共に発射された弾丸が、相手の頭に穴を開けた


435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 21:13:26.23 :nW33nO5X0

「いやあ、楓殿は流石ですな」

車の中で、亜季ちゃんがテンション高く話しかけてくる

「そんなことないわ」

「謙虚なところも、流石であります!」

それを私は流れる風景を見ながら、適当にあしらう

達成感もないし、嬉しくも悲しくもない

今はただ……体が疼いて仕方ない

こっちのお仕事の後は必ずと言っても良い

私はスマートフォンでプロデューサーへSMSを送る


436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 21:17:42.47 :nW33nO5X0

亜季ちゃんと別れた後、私は一人夜道を歩く

夜風が少しでも体の疼きを冷ましてくれたら……

なんて期待したけれど、むしろ逆効果だ

風を受けて燃え上がる火のように

私の体は熱く火照って、まるで自分自身を焦がしてしまっているような

「は、ぁ……」

早くあの人の所へ……私をぐちゃぐちゃにしてくれるあの人の所へ……


437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 21:21:07.97 :nW33nO5X0

何度も足を運んだマンションの一室、その部屋のインターホンを押す

「鍵は開いています」

声を聞いただけで、どくりと体が鼓動する

私はヒールを脱ぎ散らかして、足早へリビングへと向かう

「お疲れ様でした、楓さん」

優しそうな笑みを浮かべたあの人に、もう我慢が出来なくて抱き着く


439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 21:28:12.17 :nW33nO5X0

男の体温と匂いが私を狂わせる

頭が麻痺して、上手く考えることができない

この時だけが私は生きていると実感できるのだ

呼吸は荒く、心臓が痛いほど鼓動している

体は熱くて、下腹部がじんじんと疼いていく

「ねぇ……抱いて、ください」

私は娼婦のように、男にお願いをした




おしまい


440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 21:29:47.08 :nW33nO5X0

読んでくれた方に感謝を
ちょっと休憩します





442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 22:28:26.58 :nW33nO5X0

再開します
それでは>>444の楓さんどうぞー


444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 22:29:21.20 :mGqTnLXGO
ホステス

445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 22:29:37.82 :pAbmP8Vuo
スーパーマン


447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 22:41:46.66 :nW33nO5X0

「……なんだこれは」

会議室に一つが異様な雰囲気を放っている

と言うか、外装も扉も違うけどどういうこと?

白を基調として、凝ったデザインの……まるで西洋の城みたいだ

良く見てみると、看板が掲げられており、こう書かれている


『Club Cinderella』


448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 22:45:58.61 :nW33nO5X0

「いらいっしゃいませ」

慇懃に頭を下げる女性は、俺の良く知る女性だ

「いらっしゃいました……何してるんですか? ちひろさん」

いつぞやの黄緑色のドレスを着たちひろさんが俺を出迎える

「ここは疲れたお客様を労う場所……まぁ、ちょっとしたお遊びですよ♪」

お遊びにしては金がかかってる気がするんですけどね


449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 22:49:45.87 :nW33nO5X0

「ほら、とにかく座ってください」

黒塗りのソファに促され、腰を下ろす

「それでは少々お待ちくださいませ」

俺に何の説明もないまま、ちひろさんが去っていく

手持無沙汰な俺は、店内を見渡してみる

ボックス席が何セットかあるようだ、それにしても煌びやかな店内だな

豪華なシャンデリアと綺麗なテーブル、それにソファの座り心地が安物ではないことを教えてくれる


450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 22:52:38.68 :nW33nO5X0

しばらくすると、これまた見知った女性がこちらへやって来た

「かえでです、初めまして」

「何してるんですか? 楓さん」

今日二回目の質問

それに楓さんは笑って返事をする

「私は『かえで』です」

「はぁ……そうですか」

これも遊びの一つなんだろうか? 


451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 22:57:06.51 :nW33nO5X0

「お飲み物はどうなさいますか?」

アルコールとソフトドリンクどちらもあるとのことだ

今日の仕事はもう終わりだが、流石にアルコールはまずいだろう

「コーラで」

「……お飲み物はどうなさいますか?」

「コー……」

「お飲み物はどうなさいますか?」

「ハイボールにしようかな」

俺が折れる形になった

「心を込めて作りますね♪」

今日も笑顔が眩しいなぁ……


453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 23:07:09.57 :nW33nO5X0

持ってきたのは白州の18年……18年!? また高い酒持ってきたな

こんな酒プライベートでも買うことはない、せめて12年くらいだ

こんなものを店で飲んだらと思うとぞっとする

「良いお酒ですよね、豪華なハイボールです」

楓……かえでさんが手慣れた手つきでハイボールを作っていく

ウィスキーをきちんと計り、丁寧にステアしている

綺麗な指が流れるように動き、少しどきりとした


454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 23:11:09.22 :nW33nO5X0

「はい、完成でーす♪」

俺の前にグラスが置かれた

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

にこにこと楓さんが答える

自分が作ったハイボールを見つめながら、とても優しい笑みで

「かえでさんは……」

「はくしゅん! はくしゅっ……はくしゅう……」

「……かえでさんもどうぞ」

「まぁ、ありがとうございます♪」


455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 23:15:06.33 :nW33nO5X0

二つのグラスが揃い、乾杯となった

「「乾杯」」

声が重なり、グラスがかちりと音を鳴らす

ハイボールを一口頂いてわかったが、べらぼうに旨い

若い時は濃いめで頼んでいたが、歳をとって適度な濃さがあるのに気付いた

これはその点ばっちりだ、酒の美味さが相まって何杯でも飲めてしまいそうだ


456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 23:20:04.11 :nW33nO5X0

「ふぅ、おいしい……」

ほうっとかえでさんが吐息を吐く

こんなに美味そうに飲んでくれるなら、酒も喜ぶだろう

「少し、寒いです……もう少しそちらに寄っても良いですか?」

かえでさんのとうとつな言葉に

「ええ、どうぞ」

声を上ずらせながら、返事をした


457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/20(土) 23:25:44.98 :nW33nO5X0

「それでは失礼します」

少しの衣擦れの音とともに、かえでさんがぴたりと俺の横につく

……とても良い匂いがする

それに、その洋服と言うかドレス? 丈が短くないですか?

「えっちさんですね、めっですよ♪」

視線に気づいたのか、俺の顔を覗き込むかえでさん

「す、すみません!」

ぱっと視線をずらすが、頭の中では白くて柔らかそうな太腿が離れない


460 :1です :2018/01/21(日) 10:52:56.25 :b3S/cBj/0

煩悩退散! とグラスを一気に煽る

「まぁ♪ 良い飲みっぷりですね」

手をぱちぱちと叩きながら、かえでさんは上機嫌のようだ

「おかわり作りますね」

グラスを無言で差し出すと、少しだけ彼女の手と触れる

「すみません……」

「いいえ、お気になさらず」

俺だけどきまぎして、かえでさんは随分と余裕がある

「次はロックでお願いします」

こうなりゃ飲もう、とことん飲もう


461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 11:01:43.79 :b3S/cBj/0

「今日はお仕事だったんですか?」

ロックグラスに氷を入れながらかえでさんが聞いてくる

「そうです、今日もありがたいことに忙しくてね」

多方面にわたり、うちのアイドルたちは頑張ってくれている

嬉しい悲鳴というやつだ

でも、何事も上手くいくわけではなく、裏方は頭を下げることも少なくない

「頑張ってらっしゃるんですね、でも……無理はしないでください」

どうぞ、とグラスを渡され、琥珀色のグラスを傾ける


462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 11:07:33.86 :b3S/cBj/0

何杯目か忘れてしまったころ、俺はもうほろ酔いを通りこして出来上がっていた

「ふざけんな、あのディレクターやらしい目でうちの子たち見やがって」

もう、抑制が効かなくなっている

「知ってますか? この前の俳優のこと、あいつこの前俺に何て言ってきたか」

「うーん……わかりませんね」

グラスを傾けながらかえでさんが答える


463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 11:12:37.20 :b3S/cBj/0

「高垣さんと飲みたいからセッティングしてくれませんか? だってさ」

ちょっと自分が売れてるからって調子に乗ってるんじゃねぇ

「へぇ、貴方は何て答えたんですか?」

「ふざけんな、一昨日きやがれ! って言ってやりましたよ」

……本当はそう言いたかった。けれど、へーこら頭を下げて丁寧にお断りするしかなかった

金と力があれば大抵のことは何とかなる、良い世の中だよ本当に

くそったれしかいねーんだからよ


464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 11:18:42.69 :b3S/cBj/0

「その……高垣さんはオッケーを出すかもしれませんよ?」

かえでさんが挑発的な視線で俺を射抜く

「楓さんが? ないない! あの人とあんな奴じゃ似合わねぇし、俺が許さねぇ」

「ふふふ、随分と高垣さんを気にかけてるんですね」

かえでさんが嬉しそうにほほ笑む

「そりゃあね! 俺は、楓さんが……」

楓さんがなんだ? 俺は何を言いかけたのだろう

「……同じものを」

言いかけた言葉とともに、残ったウィスキーを呷った


465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 11:23:58.05 :b3S/cBj/0

頭がふらふらする

きっともう呂律も回っていない、と思う

「大丈夫ですか?」

かえでさんが心配してくれている、俺だせぇ

「大丈夫、そろそろ帰ります」

俺がそう言うと、かえでさんがそっと手を重ねてくる

すべすべでしっとりしてる、触り心地が良い


466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 11:29:09.69 :b3S/cBj/0

「貴方の想いはきっと届いています」

かえでさんが続ける

「貴方の頑張る姿をきっと見ています」

気付けば、目の前にかえでさんの顔がある

青と緑の綺麗な瞳が、すぐ目の前に

「だから、貴方の行いは間違ってません」

かえでさんの瞳に吸い込まれそうだ

そして、最後に耳元でこう囁かれた

「またいらしてください、私はいつでも貴方を待っていますよ」


467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 11:34:56.87 :b3S/cBj/0

手を振るかえでさんにお別れをしていると、ちひろさんが声をかけてきた

「いかがでしたか? たまにはこういうのも良いでしょう」

「そう、ですね……たまには」

たまにはなんて言っているが、とても楽しい時間を満喫できた

公式にアイドルを酒が飲めるってすごくね? さすが千川ちひろだ

「それではこちらが今日のお会計です」

ウィンクと共に渡されたものを見て、一気に酔いがさめる

「カードも使えますので♪」

まぁ、楽しかったし……良いか


おしまい


468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 11:36:09.52 :b3S/cBj/0

読んでくれた方に感謝を
続きは夕方過ぎになりそうです
それではまたー


469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 12:26:56.77 :f2cNrd9Ro
ちっひはぼったくりが似合うな





470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 19:33:33.94 :b3S/cBj/0

こんばんは、それでは再開します
>>473の楓さんどうぞー


473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 19:34:19.75 :fNgL8mtsO
戦闘機パイロット


477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 19:47:10.57 :b3S/cBj/0

目の前で花火が上がっている

赤くて、盛大な花火が

私はそれをただ眺めることしかできなかった

ごめんなさい、ごめんなさいって心の中で謝りながら

貴方のおかげで……ううん、これ以上は言っちゃ駄目ですね

そして

赤い花火は黒い煙を漂わせながら、落下した


478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 19:51:20.50 :b3S/cBj/0

目が、覚めた

「……」

あれから同じ夢を何回も見る

そうすると、決まって目が覚めてしまう

時計を確認すると、まだ深夜といったところ

寝汗で気持ち悪いので、シャワーを浴びて眠りなおすことにした

二回も起こすのは止めてくださいね? そう、誰にともなく言ってから


479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 20:02:13.38 :b3S/cBj/0

アラームで起きてから、朝の準備をする

悪夢で起こされなかったことに、ほっと胸を撫でおろす

それから……と、忘れ物をしてしまった

少しくすんでしまったリボンを腕に巻き、格納庫へ向かう

足取りはとても重い

憂鬱ではあるが、重い足を引きずって無理やりに自分を鼓舞する


480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 20:08:43.97 :b3S/cBj/0

「おはよう、美世ちゃん」

忙しそうに動き回っている同僚に挨拶をする

「楓さん、おはようございます!」

この子はいつも元気で、私もそれを少し分けてもらっている

「調子はどう?」

美世ちゃんは隣に佇む戦闘機を見ながら

「良い感じですよっ!ただそろそろパーツがなくなってきていて……」

そっか、こちらも遅かれ早かれってところなのね


481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 20:16:16.40 :b3S/cBj/0

これ以上邪魔をすると悪いと思い、格納庫を後にする

なんとなく向かった先は、町……だったところ

建物はボロボロで、何とか建物の形を保っているだけ

道路もアスファルトが割れてしまっていて、舗装していない所を走るほうが早い

ここも、もう駄目かもしれない

そう独り言ちて、ポケットの中のくしゃくしゃの煙草に火を付けた


482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 20:20:41.82 :b3S/cBj/0

「けほっ……」

相変わらず慣れないな、いつまでたっても美味しくなんて感じない

あの人は美味しそうに吸っていたけれど、今でも理解できない

……まぁ、そんなもんですよね

ああ、お酒飲みたいな

大吟醸とは言わないから、せめて純米酒

今はそんなものどこに行っても手に入らないけど

私は煙草の煙を肺まで大きく吸い込んで

「けほ……」

また、むせた


483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 20:31:51.84 :b3S/cBj/0

遠くの空から、こちらに何かが近づいてくる

そう気づいた時には、轟音と共に上空を通過して行った

感傷に浸る時間もくれないのね

何て皮肉を言って、格納庫へと走り出す

そう、感傷に浸ってたって生きていけないしお腹が減るのだ

死んじゃったら自分がそれをされる側

今日も今日とてあがいてみましょうか


484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 20:47:03.82 :b3S/cBj/0

「美世ちゃん、出るわ」

「はい! あの……お気をつけて」

私の手を握り、悲しそうな顔で美世ちゃんが言う

「もちろん。死ぬんなら地上のほうがいいわ」

笑顔でそう答えて、私は戦闘機へと乗り込む

さぁ、今日も私を生かして返してくださいね?

返事をしない鉄のお友達に、小さくお願いをした


485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 21:02:46.78 :b3S/cBj/0

さっきの相手は……いた

こちらに発見されたのに、気にせず飛行している

今のうちなら、と思い、照準を合わせて攻撃を仕掛ける

すると、こっちの攻撃を予感したのか、敵機が旋回して一気にスピードを上げた

こちらも追いかけるようにスピードを上げる

……なかなか照準を絞らせてくれない

焦る。長引けばこちらは不利だ


486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 21:08:17.50 :b3S/cBj/0

「ん……?」

ここで少しの違和感を覚える

敵機の切り返すタイミングにリズムがある

「これは……そうですか、貴女も生きていたんですね」

青いイメージの私の後輩とこんな所で再開するとは思わなかった

本来ならお互いが生きていることを喜び会う所だけど……

「ごめんなさい……私たちも必死なの」

明日を生きるためには墜とすしかない


487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 21:12:47.04 :b3S/cBj/0

次は……こっち

敵機の動くタイミングを見計らい、照準を合わせる

よし、今しかない

絶好のタイミングのはず。これなら

けれど、相手は無茶苦茶な回避行動をとってきた

攻撃が外れて、こんどはこちらが窮地に陥る


488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 21:22:35.56 :b3S/cBj/0

はぁ……もう駄目みたい

もう回避行動はとれない、私はここでおしまい

そっと目を閉じる

そして、暗闇の中に花火が上がる

赤い花火……私のせいでいなくなったあの子の機体が燃えている

駄目だ、まだ顔向けは出来ない

かっと目を開き、思いっきり高度を下げた

地面に突き刺さるくらい限界までミサイルとの追いかけっこ

まだ、まだ……そして限界で水平飛行に無理やり戻す

体に物凄い負担がかかり、意識が飛びそうになるが耐える


489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 21:30:31.44 :b3S/cBj/0

……どうやら最後のあがきは成功したみたい

気付くと敵機はすでに去っている

「ふぅ……」

息を吐くと、心臓が痛いくらいに鼓動しているのに気付く
今日も生きることができた

「はぁ、お酒飲みたいな」

くいっとお猪口を呷る真似をして

ちょっとの虚しさと、生きている実感を飲みこんだ



おしまい


490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/21(日) 21:38:37.39 :b3S/cBj/0

読んでくれた方に感謝を
今日はおしまいにします

続きは明日にでもー


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【SS速報VIP】【モバマス】楓さんで安価
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